機甲戦
まだ何が起こったかは把握できていないが頭で考えるより先に操縦桿を握る手が動く。
ベリオノイズの背面スラスターが火花を散らせながら火を噴き機体を起こす。
モニター正面に赤い粒子光を視認。
強力な粒子圧縮反応を確認。
グレアノイド粒子砲の射出兆候。
眼前の状況、その情報のみを確認し次の行動に移す。
所属不明機、メガロマニアが構えた砲身の先に粒子砲弾射出方向を調整する物質化光の円環が現れ……そして強大な一撃が放たれた。
ガーネットが何か叫んでいたが極限状況での深い集中で聞こえない。
脳がベリオノイズの操縦に対してのみ稼働している感覚。
こちらへ向かってきた粒子砲弾を真横に避けるのではなく、斜め右前へ向かって瞬発的にスラスターを使用し回避行動をとる。
左側面ぎりぎりを掠める形で回避……したかと思えば左肩部の装甲が溶解した。
掠めただけでも装甲が破壊される威力。
とんでもないものと遭遇してしまったと、雛樹は戦慄し歯を食いしばり操縦桿をさらに強く握りこむ。
そしてその次弾がすでにこちらへ向かって放たれている。
強力な粒子砲はそれ相応の〝溜め〟が必要になるはずなのだが……それが極端に短い。
ベリオノイズの背面スラスターがさらに出力を上げ、凍てついた湖面の上を滑るように回避行動を取る。
それは敵機の捕捉を無理やり引き剥がし、ベリオノイズから外れた粒子砲は湖の上に張った分厚い氷を破壊していく。
「このままじゃ埒が開かないな……!!」
粒子砲を回避しながら機体の正面を敵機メガロマニアに向け、側面のスラスターを使用し移動しながら借り物のアサルトライフルを構えて発砲。
歩兵が携行するものと比べれば大砲並みの口径なのだが……。
「弾かれるか」
弾丸が相手の装甲に届く前に物質化光のシールドに阻まれて弾かれるのだ。
その上、そのシールドの向こうで両側の腰辺りからせり出してきた兵器を視認。
複数の銃口が円を描くそれは高速で回転し始め……。
あれはヤバイ。
そう感じた瞬間にはすでに上空に跳んでいた。
超大口径ガトリング砲。
それは先程までベリオノイズが進んでいた場所、移動先を寸分違わず狙って連射された。
連射などというレベルでは無い。
回転する砲身から次々に放たれる弾頭はもはや一点一点ではなく、線となり凍った湖を角砂糖でも崩すかのように破壊していく。
上空に飛び出したベリオノイズはその隻眼のメインカメラにてその様子を眼下に捉える。
そして極大威力の火線がこちらに狙いを合わせて迫ってきているのも。
「何が出てくるか分かったもんじゃ無いな」
跳んだことによる浮遊感の中、雛樹は操縦桿を握りこむ。
反重力炉を積んでいないベリオノイズは、空中でのスラスター操作になると地上と比べ数倍難しくなる。
何せ地面での踏ん張りが効かず、機体姿勢の制御は全てスラスターで行わなければならないのだ。
だがそれもガーネットに言わせてみれば……感覚だ。
彼女は雛樹に対し、感覚で操作と言い続けてきた。
それはなにも適当に、ざっくりとそう教えてきたわけでは無い。
雛樹という機甲兵器搭乗者にはそれができるポテンシャルがあり、それができなければならない機体に乗っていたからそう教えていたのだ。