ステイシスオマージュ
おそらく4脚機甲に搭載された火器での粒子砲防御策を考えたのもガーネットだろう。
彼女の指示とユーリ及び静流の姉妹息の合った連携があったからこそ先ほどの砲撃を軽減することができた。
雛樹は次の攻撃に備えて操縦桿を力強く握りしめ、感覚を研ぎ澄ます。
《多分感覚でわかってると思うけどぉ、相手の機体結構やばいかもぉ》
「こいつやお前の機体と同じ気配はするな」
《そぉ、どちらかというとデトと同じぃ。グレアノイドコア搭載型のウィンバックぅ》
箱舟の最高戦力、ステイシス=アルマの専用機ゴアグレアデトネーター。
ステイシスの身体能力に合わせて組み上げられた至高の原動核、グレアノイドコアを2基搭載している怪物機甲兵器と同じ気配がするという。
方舟から輸出されたものではないはずだ。
そもそも方舟内ですらグレアノイドコアを製造する企業は現状GNC以外存在していない。
そのGNCですら企業連の監視下の元、デトネーターに搭載するグレアノイドコアを製造するのみにとどまっている。
《方舟外で作られたコピー品かもぉ。でもそんなことより、まずそんな機体に乗れる人間がいることがおかしいんだけどぉ》
グレアノイドコアが機体に供給するエネルギー量、粒子量はブルーグラディウスなどに搭載されているフォトンノイドコアとはまた次元が違い、強力なものだ。
強力であるそのコアが製造、搭載されない最大の理由としてグレアノイドによる侵食性、毒性にある。
精製され、人体にある程度外を及ぼすことがなくったファトンノイドとは違うのだ。
もちろん排出される粒子による汚染も考えられるが……それよりも搭乗者への汚染被害が甚大となる。
グレアノイドコアが稼働している間、出力部以外からもグレアノイドが放たれる。
その放たれるもののなかに放射線と同じ様な反応を示す粒子が存在し、機体内部を貫通しコクピット内に被害をもたらす。
《2基ってことはまず間違いなくなんらかのグレアノイド耐性を持ったパイロットよぉ。もしかしたら、あたしのサンプルの適合者かもぉ》
「嘘だろ。お前みたいなのがもう一人……?」
《ちょっとぉ、なにそれどーゆーいみぃ?》
以前セントラルストリートパレードの際にはステイシスの血液、そして採掘シャフトではおそらく10年後のステイシスを本土側に入手されている。
あくまでもロシアではなく本土ではあるが実験が進み第2のステイシスを生み出した可能性はある。
だが長年第2のステイシスを生み出そうとしてきた方舟が生み出せなかったものをそっくりそのまま生み出せたとは考えにくい。
《……!! しどぉ、上空で動いたわよぉ。私からでもどこにいるのかはっきりわからないけどぉ》
「ガーネット、無茶を言うようだけどターシャとユーリのオペレーションを任せていいか? 俺も大体の位置はわかるが二人は無理だ」
ベリオノイズは木陰から一気に飛び出してアックスを左腕部に、右腕部にライフルを構えながら開けた湖の方へ移動し始めた。
《ぅえー! なんであたしがぁ》
「頼む。俺一人じゃ無理そうな相手だ」
スラスターを一気に全開にし、針葉樹林の中を突っ切るようにして進む。
その間にもこちらに向かって上空から先ほどほどの威力はないものの鋭い粒子砲撃が向かってきていた。
もうあと一歩で樹林を抜け、湖というところで一旦止まり、湖の外周を猛スピードで回りながら凍った湖面に向かってライフルの引き金を数回引いた。
放たれた弾丸は凍った湖面にめり込み、弾かれた。
(強度は十分だな)
手前、その先、湖の中央付近と弾丸を放って帰ってきた感触は全て同じようなものだった。
これならベリオノイズが乗ってもある程度ならば割れる心配はなさそうだ