頼みの綱、出撃不可
方舟の最高戦力と言われるステイシス=アルマが保有するドミネーター因子。
その因子による生体汚染力は凄まじく、直接触れた部分から1分ともたず全身がグレアノイドに汚染される。
グレアノイド化した人間はもはや人間と呼べるものではなく、有害なグレアノイド鉱でしかなくなる。
そのため生体に寄生する寄生体は活動できず、2次被害をもたらすことはない。
「姉さん! 何者だあれは。撃たれたはずだろう。それにあの現象は……」
「あー……まあ説明すると長くなるので、ああいう力を持っている方舟の兵士だと認識してください」
「方舟にはあんなものがいるのか……。おそろしい場所ね」
ガーネットは撃たれた部分を気にする素振りも見せず、葉月の元まで歩いてきた。
上着に穴が開き、そこから滲み出る血液の跡が随分と痛々しいが……。
「はづはづ大丈夫ぅ? なんともなぁい?」
「だ、大丈夫。それより貴女こそ大丈夫なの? 随分顔色が悪いわ」
「ちょっとだけ吐きそぉ……」
寝不足とダメージにより体調が悪いわけではない。
自分の肌に触れた相手を黒塊に変容させる事に対し、ひどいトラウマがある。
そのトラウマをガーネット自身が自覚しているわけではなく、なぜか無意識下で精神に異常を及ぼす。
よりトラウマを刺激する形で相手を黒塊に変容させてしまった場合、ガーネットの身に何が起こるかはわからないため、この戦闘方法は諸刃の刃となる。
しばらくして落ち着いた後、ガーネットは先ほどまでのことと雛樹やセンチュリオンテクノロジーの二脚機甲部隊が出撃したことを説明し、これからどうするのかを葉月に問う。
「正直私たちとしては無視したい相手ね、カルト教団なんて……。Δタイプを前にそんな相手に消耗している場合ではないわ」
「はづはづ、でもぉ……しどぉもう出ちゃってるわよぅ? 少しでもこの軍に借りを作る目的だけどぉ」
「今更下がれないでしょうね。彼がそういう目的で動いてくれているのは正直ありがたいけれど……。祠堂君も相当寝てないでしょう? バックアップも無しに大丈夫かしら」
「結構元気だったわよぉ。足の傷が気になるけどぉ」
「なんで痛み止めすら飲んで行かなかったの?」
「感覚が鈍くなるからよぉ。ただでさえしどぉの機体は完全マニュアル操作だからぁ。青いのみたいに神経接続できればいいんだけどぉ」
ガーネットはちらりと静流の方を見て、何かを訴えかけるが……。
「うっ……。申し訳ありません。ブルーグラディウスの出撃許可が下りなくて、システムキーを取り上げられてますです……」
結月静流がほぼ無許可でブルーグラディウスを運用し、このロシア軍基地まで来てしまったためセンチュリオンテクノロジー上層部から叱責を受け、一定の制限が課せられてしまっているのだ。
現在その対応に対し激怒したアルビナが、基地の通信システムを使用し上層部に掛け合っているのだがこの襲撃の最中だ。
交渉が寸断し上手くいっていないらしい。




