人造ドミネーター交戦
ライアンは接近してきたベリオノイズの足先から頭頂部まで確認した。
シャープなフレームに黒く薄い装甲、右目が無く左目のみのメインカメラ部。
兵装は4箇所に射出型ハーケンと両腕部にパイルバンカー。
(なんて装備だ。あれでは交戦可能距離は100mもない筈。あれでデルタ級の急襲に耐えたのか)
通常の二脚機甲での安全交戦距離は500m〜3000m。
500m以内での戦闘になるとドミネーターの攻撃も苛烈化する。
安全域での交戦を捨て、わざわざ接近戦に持ち込む理由はなんだ?
ライアンはひどく動揺したが、同時にこの機体に大きな好奇心を抱く。
《その装備では辛いはずです。こちらの予備兵装を》
《本当か? 助かる》
アルデバラン、ライアン機は腰後ろの兵装格納庫から機構兵器用カービンライフルを取り出してベリオノイズにアームで差し出した。
ベリオノイズの腕がそのライフルに伸びようとした時だった。
《シエラ2より全機へ。前方よりドミネーター反応、お客さんだ》
《シエラ1了解。各機戦闘体勢へ移行しろ。我々2機を中心に2km圏内にて展開し、交戦距離へ入り次第撃滅せよ》
《シエラ2了解》
《シエラ3了解》
ベリオノイズは受け取ったライフルのスライドを引き、薬室に弾薬を送り込んだ。
《シドー、使い方は歩兵兵装と同じです。50mmFMJ弾、1マガジン42発、予備弾倉は3つ》
《了解……。それにしてもかなりの数いるぞ》
アルデバラン各機及びベリオノイズは同じ方向を向き、待機する。
敵反応接近、3000m……2300m……早い。
全速力でこちらに向かってきている。
「この感じ……」
《どうしたシドー君》
「気をつけろ、多分今来てるやつは既存の型式に当てはまらない人造品だ」
《セントラルパレード襲撃の際現れたというドミネーターですか》
異常に筋肥大した腕の長いだるまのような姿をしたドミネーター。
セントラルパレード襲撃事件にて本土の潜水艦より海上都市へ打ち込まれ、雛樹及びRBに破壊された個体。
それが1や2ではない、数十体規模でこちらへまっすぐ向かってきている。
シエラ2、シエラ3がフォトンノイドライフルで接近してくるドミネーターに応戦を始めた。
闇の中の針葉樹林の中をまっすぐ青い粒子光が幾重にも伸び走り、針葉樹をなぎ倒しながら着弾すると青い球状の爆発を起こす。
《一体撃破》
《こちらに接近される前に少しでも数を減らせ!》
《こちらシエラ3、接近速度が早すぎる! このままだと後方へ抜けられるぞ!》
後方にはロシア軍防衛基地がある。
このまま抜けられると被害が出る。
そこでベリオノイズから雛樹の通信が入った。
《俺が前に出て群れの足止めをする。全ては無理だ、抜けられたら頼む》
《おいおいおい! 本当に前に出たがりだな君は!》
《そうすることしか能がないんでね。間違ってケツを撃たないでくれ。行くぞ!》
ベリオノイズの背部スラスターが赤い火を噴出させ、ゼロから凄まじい加速を見せ接近してくるドミネーター群へ突っ込んでいく。