索敵部隊
その赤い光は紛れもなくドミネーター因子からくる赤色発行現象であり、因子が活性化した証でもある。
だが、活性化してすぐ “彼女”の赤い瞳はお互いが痙攣しぎょろぎょろとあらぬ方向を向く。
間髪入れず顔を右手で覆い苦しげに背を曲げて唸った。
「ぐぅ……うぅ……」
もがきながら空いた左手をコクピット左側へ伸ばし、何かを探るように動かした後、スイッチを見つけて押し、探し物を収納しているケースを開けた。
その中に入っていたのは赤く発光する液体が充填された注射器。
緩衝材に収められるように入っていたそれは8本。
乱暴に漁ったため隣にあった1本をコクピットの床に落としながら、手に取った注射器の針先を己の首筋に強く押し当て……その赤い液体を己の体の中へ注ぎ込んだ。
つま先から頭頂部まで全身の筋肉が突っ張ったかのようにまっすぐに伸び、数秒呼吸を止めた後がくりとうなだれ自分の太ももに唾液がポタリと数滴垂れた。
「う、ああ……畑から戻ったらちゃんと手を洗うんだよ……。そうだね、もうみんなお腹が空いているだろうしご飯にしようか。ああ……洗濯物を取り込まないと……メイ、大丈夫、ちょっとお仕事に行ってくるだけさ……すぐ戻ってくるからいい子にして待ってるんだよ……」
先ほどまでと打って変わって非常に穏やかな様子でそう言った。
その穏やかさが逆に狂気的で、何かが決定的に破綻した様子を見せていた。
……。
センチュリオンテクノロジー製の青を基調とした二脚機甲、CT44-アルデバラン極地兵装仕様。
アルビナがここに呼び寄せた3機からなる機甲兵器部隊は紛れもなくエース級の搭乗者と機体性能を持っている。
極地用にチューニングされた各種火器、装甲を始めとし、吹雪の中でも問題なく使用できる高性能カメラ、レーダー、通信機と最高の装備を持たされている。
フォネッティックコード、シエラ。
シエラ1、ジョージ=ライアン准尉33歳、元アメリカ軍フォース・リーコン所属、男性。
シエラ2、アーリヤ=リカ=トルストイ軍曹、元ロシア軍対ドミネーター特殊作戦第3兵団所属、26歳、女性。
シエラ3、高崎勝一等兵長、26歳、男性。
その3名はセンチュリオンテクノロジー対高位ドミネータ攻略機甲部隊の一員である。
ライアンを部隊長とし、最も連携が取れた者で組まれたこの部隊は先だってのデルタ級急襲の際最小限の被害で切り抜けた優秀な部隊である。
《シエラ2からシエラ1へ、針葉樹林帯に入った。雪はましになったが暗い。暗視兵装を使用しても?》
「こちらシエラ1、問題無いだろう。だができるだけ音は立てないで行こう。ヤブヘビはごめんだ」
《了解》
3機はそれぞれカメラを暗視モードへ移行させた。
暗い中でもわずかな光を高感度センサーで感知し、増幅させ外部を映す。
少々緑がかり映像ノイズも入るがそれでも暗闇の中問題なく作戦行動が行える。
《シエラ3より全機へ。後方よりグレアノイド反応が接近している。早いぞ……》
《シエラ1反応確認》
《シエラ2確認、なんだ? 基地のある方向からよ》
全機反転し、圧縮した75mmフォトンノイド粒子弾を打ち出すアサルトライフルを反応の先に向けて構えた。
3機は針葉樹林帯へ5km幅で横並びに展開していたが、不可解な反応を確認したため4km、3kmと急速に陣形を縮小していった。
だが……。
《こちら夜刀神PMC所属祠堂雛樹及び同所属機体ベリオノイズから貴殿部隊全機へ。驚かせたか? 悪い、撃たないでくれ》
「ヒナキ=シドーでしたか。グレアノイドコアを積んでいるんですか、その機体は?」
《そうなんだ。紛らわしい機体で申し訳ない。嫌な気配を感じて追ってきた。加わっても?》
ライアン准尉のコクピットにノイズ混じりの雛樹の声が響く。
この声はその他2機のコクピット内にも共有されている。
「それは心強い。……っと、姿が確認できた。一応なにか友軍機と確認できるサインを見せてくれませんか? それから照準を外します」
《じゃあ3度ライトを焚く》
「カウントします、3、2、1……」
雛樹はそのカウントの終了に合わせて3度、白色光のライトを瞬かせた。
それを合図に3機は照準を外し、ライフルの銃口を下げた。
「ようこそ我が部隊へ」
《迎え入れてくれて助かった。視界が悪くて一人じゃ不安だったんだ。この機体での夜戦に慣れてなくて》




