寄生個体
傷口を圧迫し、止血したあと敵から鹵獲したAK-12の予備弾倉を遺体を漁って補充する。
ついでにフルタングナイフと手榴弾及び閃光手榴弾も1つずつ腰のタクティカルベルトに引っ掛けた。
「手慣れてますね。敵とはいえ、遺体から漁るのはどうかと思いますが……」
「屍体に遠慮なんて必要ない」
こういうところは都市で道徳を学んできたライアンと本土で原始人めいた戦闘の日々を送ってきていた価値観の違いなのだろう。
敵であっても遺体であっても一種の誇りを持っていた者にはある種の敬意を払わなければならない……という教えは雛樹にとって無縁のものであった。
「いい銃だな。カルト教団なんて不名誉な呼ばれ方している割に装備だけは一線級か。どうなってんだ……」
雛樹は鹵獲したアサルトライフルの外観を眺めながら感嘆の息を漏らす。
AK-12の上部ピカティニーレールには3倍から6倍拡大が可能なサーモスコープ、下部レールには三角フォアグリップ、サイドレールにはタクティカルライトまで装着されている。
銃身の先には減音器まで装着されているのだ。
タクティカルライトは構えた際のバランスが悪いため捨ててしまったが。
「俺は一度機体に戻ってアルビナ少尉に連絡を入れた後付近の様子を探り、接敵次第制圧します。祠堂雛樹、あなたはどうしますか?」
「建屋内部を回って残党がいないか確認する。接敵次第叩く」
「よろしくお願いします。ではまた後で!」
ライアンはそう言って格納庫外に待機させてある自分の二脚機甲の元へ走って行った。
その直後、軽快な足を音がとある格納庫の扉の向こうから聞こえてきて……。
「しどぉ大丈夫ぅーっ?」
「ちょっと撃たれた。寒さのおかげで痛みはだいぶマシだけど」
「うわ、仕上がってるぅ。全部獲ったぁ?」
「そう。結構いい装備が手に入ったんだ。……で? 追ってた奴は?」
「殺したぁ。すっごい手間取ったけどぉ」
手間取った?
いくら武装していないとはいえ、ガーネットが単体の敵に手間取るなんてことがあるのだろうか。
「で、ちょっとだけ持ってきたぁ」
「持ってきた?」
「これぇ」
両手で何かを持っているとは思っていたが、ガーネットがなんの気ない表情でその手を開けた時雛樹は小さく驚きの声をあげた。
「なんだこれ……スライムか?」
ガーネットの手の中に入っていたのは漆のように黒い粘液状の物だった。
触っていいものかどうか決めかねているうちにさらに驚くべきことが起こる。
そのスライム状の物から赤いドミネーターの目がぎょろりと数個表面化しこちらを見たのだ。
「うわ気持ち悪!!」
「そーお? 可愛くなぁい?」
「嘘だろ、感性疑うぜ……。これなんだ?」
「わかんなぁい。でも多分、これ人体に寄生して変異させるタイプの子ぉ。あたしも初めて見るぅ」
「今のこいつに害はないのか?」
「多分その辺の死体に近づけたら寄生して動くと思うけどぉ」
侵食する……ではなく寄生する個体。
それがどういった違いを持つのか……。