感知
ライアン准尉が撃った弾丸は5発。
2発は外し、残りは全て胴に入った。
エンジニア……に成りすまそうとしていた男は撃ち倒されて仰向けに倒れる。
50口径自動拳銃。
予想以上の反動であり、とっさに構えて撃つにはあまりに不向きな銃だ。
光学式の兵器に慣れてしまった自分にはどうも扱いづらい。
「取り落とすかと思ったぞ……。予想されていた事態にはならないで欲しいものだ」
ライアンはとある一つの懸念を持ちながらジリジリと撃ち倒した男の元へ行く。
照準を外さないまま、最大限の警戒をして。
50口径を3発も胴に食らった人間はまず生きてはられない。
それこそ果物が破裂したかのような有様を呈して死亡する。
「こちらライアン、結月少尉応答おねがいします」
《こちら結月……どうしました?》
ライアンは装着していたヘッドセットを使用し、静流へと通信をつなぐ。
静流はもう寝ようとしていたらしく、随分と眠たげな声だったが……。
「お休みのところすいません。不審な人物を発見しました」
《不審な人物?》
「痩せ身で白髪の中年男性です。おそらくここの技術作業者に危害を加えています。実弾にて制圧しましたが……」
《穏やかではありませんね、今すぐそちらに向かいます。他の者にも伝えますので》
「お願いします」
ライアンは倒れた男のすぐそばまで寄り、亡骸を確認する。
胴には巨大な穴が空き、おびただしい量の血液と臓物が流れ出ているひどい有様だ。
(流石に死んでいるか……)
首から下げられた個人用セキュリティーカードの顔写真と実際の顔が一致しない。
やはりなんらかの理由で入り込んできた者だろう。
警戒ばかりしている場合ではない。
その先の柱の陰に倒れている者を救助しなければならない。
彼が這い出してきたおかげでこの侵入者を撃てたのだから……。
『大丈夫ですか!? 返事をー……』
ロシア語で呼びかけながら脈を確かめたが……ダメだった。
喉を潰した後、心臓をひと突き。
命を確実に断ち、助けを呼ばせない殺害方法を取られている。
「クソ、なんとえげつない……他の方々は無事なのだろうか」
ライアンは周囲を確認しにその場を後にしようとした。
……が、背後からなにやら液体が連続して跳ねる音が聞こえる。
血液だろうか、肉を弄る音にも似たそれを聞きライアンは体を硬直させた。
……。
ひどい疲労からか思ったよりも深く寝ている雛樹とガーネット。
コクピットシートの上は狭く、そもそも一人用だ。
雛樹の腰に抱きつきながら寝ているガーネットの重みとなにやらの柔らかさなどが不必要なまでに感じられるほど密着してしまっているが、寝苦しさなど微塵もなく安らかに寝息を立てていた。
あまりに安らかな眠りなもので、脱力し過ぎ雛樹の胸板によだれを垂らす始末。
こんな過酷な任務の中でもここまで安心して心地よく睡眠できる……それだけでもガーネットにとっては幸せなことだった。
強大なドミネーター相手に方舟の防衛へ当たる際、戦闘の激しさとドミネーター因子に対する拒否反応により数日ろくに眠れないなんてことはザラにあった。
なにせこんな小さな体に巨大な方舟の命運を乗せていたのだ。
彼女にとってどれだけの重荷だったか、ストレスだったか想像に難くない。
「んん……しどぉ……」
寝言ですら彼の名前が出てくるほど懐いてしまっている。
彼女自身が知らず知らずのうちにその重荷を雛樹が降ろしてやっている。
彼がいることで彼女は人並みの幸せを感じることができている。
この睡眠にはそういった安らぎが表れているのだろう。
だが……兵器としての彼女にはその安らぎすら満足に味わえない能力があった。
索敵能力。
普段からドミネーターの反応に対し敏感なのだが、寝ている時その敏感さに拍車がかかる。
起きている時には感じ取れないどんな微弱な反応でも拾い、感知することができてしまう。




