お休み
修理部位を取り替える為には内部機構を動かしてやらなければならない場合があるため、機甲兵器にはメンテナンスシステムが搭載されている。
グレアノイド原動核を稼働させず、蓄積された電力のみを使用し稼働部を動かす。
ガーネットの指示を聞いてグレアノイド光燃料噴射装置の制御を行うバルブを開放させた。
それを確認し、すぐさま換装作業に取り掛かる。
作業が終了するまで3時間近くを要し、その頃には深夜1時を回っていた。
ただでさえ疲労が溜まっていた状態でそれだけの作業をしていたのだ。
ガーネットはともかく雛樹は……。
「しどぉ? しどぉー? 終わったってばぁ」
どれだけ呼びかけても返事をしなくなった雛樹を確認しにハッチを開けてベリオノイズコクピット内へ入った。
そしてコクピットシートに近寄り、すっと顔を出して雛樹の様子を確認した。
「……」
「寝てるぅ」
コクピットシートの背もたれを少しばかり後ろへ倒して目を閉じ、寝息を立てていた。
コクピット内も気温が低く、寒いためガーネットは空調を入れてため息をつく。
「しどぉは今日も頑張ってたしぃ……仕方ないわねぇ」
先に寝られたからといって怒るということは全くせず、ハッチを閉じて自分も一緒にコクピットにこもった。
そして室温が十分快適に過ごせる程度になった段階で着ていたジャケットやら何やらを脱ぎ、黒のチューブトップブラとショーツのみの姿になる。
コクピットシートで寝ている雛樹の膝の間に自分の膝を挟むように置き、正面から体を預けるようにして胸板に頬を寄せた。
「つかれたぁ……」
常人ならざる身体能力とそれを支える体力を有するガーネットではあったが、今回の遠征任務で舞い上がっていたこともあり精神的にも身体的にも疲労しているようだ。
しばらくそのまま雛樹の心音を聞いて落ち着いていたが、その後胸板に鼻を直接当ててくんくんと匂いを嗅いでいた。
家で彼の布団にもぐり込むときもそうだが、雛樹の匂いを嗅いでいるとえも言われぬ心地よさを感じる。
特に胸板、首筋、髪が好き。
膝に力を入れて少し体を伸ばし、雛樹の首筋に鼻を当ててすんすんとしていたところで……。
「……なにしてん」
「あ、おきたぁ。くんくんしてるぅ」
「お前それほんと好きな……。あんまいい匂いしてないだろ、シャワーも浴びてないんだぞ」
「浴びてない方が好きだけどぉ」
「んー……まぁ好きにしてくれ。修理、ほとんど任せっきりだったし」
と、雛樹が修理を終わらせたガーネットの頭を労う意味でも撫でてやった。
するとガーネットは匂いを嗅ぐのをやめ、身を丸くさせて雛樹の体の上に収まった。
猫のように甘えてくる彼女に対して少しばかり愛らしさを感じてしまう。
「ねぇねぇ、頭痛かった……」
「……へ?」
「頭殴られたの痛かったぁ……」
「嘘だろ、お前体信じられないほど丈夫なんだし」
「い、た、か、ったぁ」
「……。はいはい、わるかったわるかった。流石に殴るのははやりすぎたよ」
「ん」
背中に腕を回して軽く抱きながら優しく頭の、それも殴ったであろうところを優しく撫でてやると満足げに息をつく。
そして自分も雛樹の腰に手を回して抱きつくようにして……。
「眠たぁい」
「そうだな……。ほんとに。しばらくここで休むか? 戻れば寝床くらいは用意してもらえると思うけど」
「ここで一緒に寝よぉ」
せっかく心地いい揺りかごに収まることができたのだ。
ここ以外のところに行く理由がない。
「じゃあそうするか。お疲れ、ガーネット。ゆっくり寝るんだぞ」
「んー……」