スラスター修理
この乾燥した携帯糧食のみではかなり喉が乾く。
飲み物でもとは思うが用意の悪いことに持ってきていない。
糧食をかじってはしゅんとするガーネットを横目に見ているとかわいそうに思えてくるが無いものはどうしようもないのだ。
企業連にいた頃は馬鹿高いカロリーをもった味があるのかもわからないドリンクで済ませていたらしいが、雛樹が面倒を見てからは味のしっかりしたものばかり与えていた。
というより少しでもまともな食事をしてもらおうと雛樹が今までしてもこなかった料理に手を出したおかげか、ガーネットは食事を楽しむようになった。
『随分待たせた、済まないね』
老齢のエンジニアが小型のコンテナを牽引車両に乗って運んできた。
ガーネットは口に糧食をくわえながら長い袖で覆った手で納品データを受け取り、コンテナ内のパーツを検品する。
『んぐ……。んー、全部あるぅ』
『あとこれは差し入れだ。熱いから気をつけて飲みなさい』
『……? はぁい』
保温箱から取り出したのは断熱素材で作られた紙カップが二つ。
中にはなんらかの液体が入っているようだが完全に密封されているため匂いでわからない。
エンジニアは牽引車両からコンテナを引き離すと現場へと戻って行ってしまった。
「しどぉ、これもらったぁ」
「ん? 見せてみ」
雛樹はそのカップを受け取ると蓋を開けて中を見た。
ふわりと柑橘系とスパイシーな香り……レモンだろうか。
中には黄金色の液体が揺れていた。
「レモネードみたいなものだろうな、生姜も入ってるみたいだ。体を暖める飲み物はありがたい。よかったな、これ飲んだら作業しようか」
「これ美味しぃ」
「飲むの早いな……」
飲み終わり、二人とも頬を赤く上気させながら少しばかり疲労感の取れた状態でメンテナンス作業に移ることになった。
まずすぐそばに格納されていたペイブロウの代替パーツ格納庫より必要なパーツを出してきた。
500kgはあろうかというパーツの一つ一つをひっつかんでは引き摺り出し、持ち上げて運ぶ様は正直ありえない光景ではあったが……。
「ガーネット、あんまり人前でそんな軽々持ち上げちゃだめだぞ」
「どしてぇ?」
「めちゃびっくりされるから。それ本当だったらリフトとかクレーンとか使って運ぶやつだからな……」
「しどぉも運んでるでしょお?」
「俺は男だからいいんだよ」
「それ関係あるぅ?」
男であろうが女であろうが0.5tの物質を抱えて運ぶのは常識外ではあるが。
ドミネーター因子に侵されている筋組織は常人の数十倍もある上、強く負担をかけてやると筋組織が千切れ回復する際にさらに密度を増していく。
超回復での筋力増加は燃費が悪く衰えも早いため数時間で元の密度に戻ってしまうのだが。
見た目ではそこまでゴツく映らないため、巨大なパーツを運ぶ様はひどくアンバランスである。
「で、どこをどう直すんだ?」
「前面部スラスターの修理ぃ。爆発の熱と風でインジェクションが破壊されちゃってるからそれとっかえるのと、推進剤に指向性を持たせるためのウイングのとっかえー。エネルギーパイプラインが断線してるからそれも直すけど、これは溶接すればなんとかなるからぁ」
グレアノイドを燃料にしていると構造が単純で直しやすいとガーネットは言うが、雛樹にしてみれば意味不明な機構だ。
バイクや戦車、戦闘ヘリなどの修理などはしたことがあるが二脚機甲の図面はいくら見ても理解できない場所が多い。
そもそも二脚機甲の内部機構はブラックボックス化するためわざと複雑にしている部分も多い。
企業機密のアセンブルも多いのだ。
「何か手伝うことあるか?」
「あるぅ。しどぉはコクピットに乗ってメンテナンスモードでシステム立ち上げてぇ」
「メンテナンスモード?」
「コントロールパネルの緑色のボタンあるでしょお? あれ押しながらシステム立ち上げぇ。で、インジェククションバルブ開けてほしー」
「はいよ、じゃあちょっと待っててくれな」
「んぅー」