反省
結月静流の妹、ユーリが搭乗していた四脚機甲が上に覆いかぶさっていたおかげでさしたる損傷は無かったらしい。
2点で自重を支えるベリオノイズとは違い4点で支える機体は上からの圧力に強い。
「その……えー、なんだ。スラスターの修理はお前ができるって?」
「できるぅ。溶接とかはほらぁ」
自分の髪をグレアノイドに変化させ、精製し赤く光るメスのような形に整え付近にあった暑さ1センチはあろうかという鉄板をすっぱりと両断して見せた。
そしてその切れた鉄板の切断面をぴったりと合わせて持ち、そのメスを切断した部分に合わせて這わせると青白い強烈な火花とともに溶接されていく。
「一人産業革命だな」
「そんな驚くことぉ? しどぉだってできるでしょお」
「俺はそんな細かなコントロールできないよ。流石だな」
雛樹は普通に感動してガーネットの頭を撫でてやった。
すると……。
「……」
「うお」
またしてもガーネットがポロポロと大粒の涙を流した。
それも真顔でだ。
自分でもその涙の意味をわかりかねているようだったが。
「しどぉ……」
「なっなんだ?」
「どぉしよ……あたし最近変……」
「どこがだ?」
(お前が変じゃなかった時なんてあった?)
ガーネットの感情の爆発に対して雛樹の本音と建前はしっかり機能しているようだ。
「しどぉ今失礼なこと考えてたぁ!」
「お前ほんと察しいいな!」
ぐしぐしと涙をぬぐって雛樹にビンタを食らわせようとしたが、軽く避けられた。
「しどぉと一緒にお仕事してると楽しくて自分でも思ってもないことしちゃったりするしぃ……。失敗なんて今までしたことなかったのにぃ……」
「お前はそもそも失敗する場が与えられてなかっただけだよ。失敗くらい俺も死ぬほどしてきたから」
谷底に落下したり命令違反したり……足が地についていない浮ついた感情が引き起こしたであろう事態。
それに対して反省するあまり感情のコントロールが効かなくなっているのかもしれないと考えた。
「しどぉから優しいこと聞くとこの辺がきゅうってなるぅ……」
そう言ってうつむき気味になりながら大きな胸に右手を埋めてぐっと握る。
「しどぉに頭叩かれた時ほんとぉに悲しかったぁ……。もうしどぉに怒られた原因全部壊しちゃえば許してくれるかなって思ったくらい……。でもそれするとまた怒られるんでしょぉ?」
「おお、物の分別はついてるんだな。お利口お利口」
「馬鹿にされてるぅ!」
心地いいやら幸せやら悲しいやらでもはや感情の収拾がつかなくなっているため、あえておちゃらける事で
多少の怒りへ収束させる目論見がうまくいったようで……。
連続するビンタを全てかわして少し息が切れる頃にはガーネットの様子も落ち着いた。
「もう気は済んだか?」
「……ん」
撫でてと言わんばかりに頭を垂れて雛樹の胸板に押し付け、雛樹はそれに答えるように頭を撫でてやっていた。
「Δタイプ破壊するのぉ?」
「そのつもりだ。俺一人じゃまず無理だろうけど、お前もいるしな」
「最悪デト送ってもらうー……?」
ゴアグレアデトネーター。
ステイシスが本来搭乗するべき方舟最強の二脚機甲兵器。
「デトネーターは企業連の機体だからな……。勝率は上がるだろうが報酬のほとんどを持ってかれるだろ」




