教団の全貌
親指で隣にいた静流を指し示し、ユーリはなるほどとため息を漏らした。
「彼は元々対ドミネーター部隊出身なんです。人相手だと気が緩みがちなんですよ」
「その気を緩めた相手に私は手も足も出なかったのか……」
随分と沈んだ表情になってしまったユーリではあったが、その様子を見て雛樹は言う。
「体術の筋は良かった。機甲戦においては俺よりも腕がいいだろうし。だからと言ってあのデカブツに挑むのはオススメしないが」
「それは私が決めることだ」
「あれは生半可な兵器が太刀打ち出来る相手じゃない。方舟の最高戦力であるステイシスでさえも撃退が関の山だったんだぞ」
「そのステイシスとやらがどれほどのものかは知らないし、関係ない」
ユーリの決意は固く、意見を変えようとしない。
静流もユーリの気持ちは痛いほどわかるため強く否定はできないが……。
ウィンバックアブソリューターでさえ防戦一方になるほどの火力と生半可な粒子兵器では傷一つ付けられない堅牢さ相手に何ができるというのか。
「頑固なところは姉そっくりだな」
「ま、まぁ……姉妹ですし。でも根は可愛らしくて年相応にやんちゃなんですよ。あんな態度なのも母の真似をしているだけで」
「余計なこと言わないでいい……!」
怒鳴った勢いで起き上がろうとするもまだ麻酔が効いているようでベッドから出られず、顔を赤くして静流を睨みつける。
見た目どころか態度まで似ているのはさすがに憧れなどから寄せているだけのようだった。
「えっと、ターシャ妹」
「ユーリでいいわ」
「じゃあ、ユーリ。この国でも例のカルト教団が出るっているのは本当か?」
「うん、いるぞ。そもそもお前たちがそうなのではないかと思っていたのだけど」
「俺たちが? なんで……」
「黒い機甲兵器になんて乗っているからだ。黒は奴らの……怪物の色だろう。教団の連中はそういう兵器を好んでよく使用する」
「奴らは機甲兵器まで持ってるのか?」
「ああ、お前が載っていたものよりもふた回りほど大型のものだけど。私がここに配属される前にαタイプドミネーターと共に現れたらしい。Δタイプが出現してから教団の動きも活発化している。Δタイプを神かなにかだだとか崇めている……という話も聞いたことがあるわ」
「いよいよもっておかしな奴らだな……」
機甲兵器すら所有するということはなんらかの形で方舟とのパイプを持っているのか、単なる横流し品なのか。
そもそも気候兵器自体生半可な資金力では所有することも運用することも難しいはずなのだ。
全世界に展開していることといい、全貌が見えないほど巨大な組織なのだろう。
と、雛樹の通信端末に着信が入ったのだ。
ガーネットがベリオノイズの救出を終えたというのだ。
「ターシャ、悪い。ベリオノイズの様子を見てくる」
「はい私はもう少しユーリと話してから行きます」
雛樹はすぐさま部屋を出てベリオノイズが運び込まれたという格納庫へ向かった。