33話ー対照的な姉妹ー
「流石に体格差で負けたか? 素直に殴られたものね」
「これ以上やらかして社長を泣かせたくないしな。おとなしく殴られておいた」
「フ、言い訳としてはまともだね」
それにふらついた足から繰り出された腰の入っていない一発で済んだのがよかった。
後ろにさらに何人か控えていたため、下手に抵抗すれば全員で袋叩きにあっていただろう。
ここではナイフや銃の類は取り上げられているため素手でまともに相手せねばならず、体格に恵まれたロシア兵相手かつ廊下という閉所では分が悪かった。
分が悪いからといって人間相手に因子の力を使うなどありえない話だ。
それにその場にガーネットがいなくてよかったとホッとしていた。
ガーネットはそろそろ動くようになったであろう二脚機甲ペイブロウでベリオノイズの上に乗った瓦礫を退け、救出を行っているのだ。
「今は懲罰房行きになってますのでアフターフォローよろしくです」
「するものか、まったく……」
ただただ勝手に好意を持たれ、勝手に自分の騎士になりたいと息巻いていた男のことなど知るものか。
……というよりもだ。
「見た目がこれだから、言い寄ってきては勘違いする男の多いこと多いこと……いい加減にして欲しいものね」
たしかにユーリの容姿はそれはもうすこぶる整っている。
そんな女性が軍部でむさい男たちに囲まれながら、その男たちに負けないくらいの腕を持ち職務に当たっているのだ。
それはもうそこら中から好意の目を向けられていることだろう。
「付き合う男に困ったことは一切ない。姉さんもそうだろ?」
「わ、私はそんな……。男遊びは本当にしませんし……ね? ヒナキ」
「いや、俺に同意を求められてもな。ターシャも方舟では随分人気者だし、エリート達にしょっちゅう言い寄られてるところを見かけるが」
「もお! 余計なことは言わなくていいんです! 身持ち固いの知ってるくせに意地悪するんですから!」
静流は顔を赤くして雛樹に食ってかかるが、雛樹はへらへらと笑ってそれを軽くあしらっていた。
こうして会話をしていてわかることだがユーリと静流はある意味対照的な姉妹であることがわかる。
見た目もそうだが真面目か奔放か、頭の良さなどはまさに父親似母親似の特徴を受け継いでいるようなものだ。
「人一倍性欲お化けのくせに真面目なものだから苦労してるんだ、我が姉は」
「んなッ!? また余計なことを言って!! ヒナキ! この子の言うことはまともに聞かないでくださいよ!?」
「身内の言うことはよく聞いとかないとな」
「うああっ。ユーリィィィ!!」
そんな会話をしていくうちに和やかな雰囲気になり、雛樹は心底安堵した。
自分が静流の妹のプライドを著しく傷つけたかもしれないと言うことは静流の口から聞いていたため、なんと謝ったものかとずっと頭を悩ませていたのだ。
「対ドミネーター部隊CTF201所属祠堂雛樹、噂には聞いていたがやはりいい腕だ。ただ幼子でも相手にするような戦い方はひどいと思うな。こっちは本気だったのに」
「申し訳ない。随分似た動きをする奴を知ってたもんで対処しやすかったんだ」