31話ーユーリー
より多くの金額を引き出せるロシア軍の手札であった戦線維持をセンチュリオンテクノロジー社がカバーしたおかげで、夜刀神PMCが支払う金額は7000万のおよそ半額にまで減ることになった。
その金額を雛樹が得たヘリックスモーリス社救出報酬を当てれば債務残は500万まで落とすことができる。
これで首の皮一枚繋がった……と思った矢先。
「夜刀神の。君にも註文書を書いて書いてもらわなければならん」
「へ?」
「2週間分の請負料金だ。明細を確認しろ」
「……」
あ、そこはちゃんとお金請求するんだ。と、葉月は思った。
助けてもらえたと勘違いしていたが、アルビナの立場から見ればこれはビジネスだ。
タダで助けてもらえるなどという甘い幻想をいだけるほどこの戦場の世界は甘くない。
2機分の二脚機甲の弾薬量や燃料を含む2週間分のコストやパイロットにかかるコスト等、合わせて30項目の明細の下に合計金額があり……。
(は……800万上乗せ……)
葉月の目からほろほろと涙がこぼれた。
「あの……母……アルビナ少佐。少し手心を加えていただいても」
「甘い。己が持つ部下の責任くらいしっかり取れ。我々は慈善事業を行っているわけではないのだぞ」
真顔で涙をぽろぽろと落とす葉月があまりにも不憫で、静流がアルビナに苦言を呈したがそれは一蹴された。
その後、ヴァレリー防衛長官がロシア語で会議の終了を告げると参加者は次々と持ち場に戻っていき……。
残ったのはヴァレリーと方舟の面々のみとなった。
アルビナはヴァレリーと話があるようで二人してロシア語で何かを話しているが……。
『ヴァレリー、ユーリを引き取らせてもらうぞ』
『ふん、好きにするといい。除隊届けも受理している……が、今の彼女が素直に方舟へ出向くとは思えんがね』
『Δ級によるウラジオストク壊滅の件か……』
『そうだ。そのΔ級討伐のため彼女はこんなロクでもない前線まで自ら志願し、出てきているのだからな』
『……』
雛樹は二人が何を話しているかわからず、ずっと自分のそばでしょぼんとしていたガーネットにこっそり翻訳を頼んだ。
するとガーネットはむっつりのした表情で先ほどから聞いていた二人の会話を雛樹に話し始める。
「ユーリとかいう人を引き取りにきたけどぉ……そのユーリってのが素直に引き取られるかわからないみたいなこと言ってるぅ……」
「ユーリ?」
ロシア人名称でユーリは男性名である。
男の兵士を引き取りにきたということだろうか?
「ユーリは私の妹です。おそらく雛樹が対峙していた4脚機甲に搭乗していたのが彼女だと思いますが……」
「ああ、あのアルビナさんに似てた奴か」
「会ったんですか?」
「ああ、瓦礫のせいでベリオノイズが動かなくなったからな。外に出て彼女と白兵戦になった。麻酔で眠ってもらったけど」