27話ー極寒の中の悪魔ー
強い、強い、強い……!
我々とてもはやこの身を焼くとでも形容できそうなほどの極寒の中、並々ならぬ研鑽を積んできたはず。
だが圧倒的な力に圧されている。押し込まれている。
なんだって言うんだ、こんな……こんな。
どうみても少女じゃあないか。馬鹿げている!!
『ふぅん。これくらいしどぉならうまく捌けてたわよぉ? やっぱりしどぉってすごいのねぇ』
顔色一つ変えずに何を言いやがる。
シドォ? シドォとは……先ほど聞いたヒナキシドーのことか?
ならこの少女の形をした化け物とは戦わなくてもいいのではないか?
畜生、考えている余裕がない。
15メートル。
この距離で亜音速の麻酔弾を身一つで軽く避けるなんてあり得るのか?
『うあっ……うわあああ!!』
錯乱した仲間がSMGを取り出しやがった。
馬鹿野郎が、生かして捕らえろと命令が下っていただろうが!!
だが……それを止める気にはなれない。
なぜかって、いっそのこと死んでくれと願ったからだ。
俺たちの誇りのために!
『だめよぉ錯乱しちゃあ。どこから撃ってくるのか丸わかりぃ』
だからって回避するために壁を蹴って天井に張り付いて回避した上に撃ってきている奴の懐に入ろうとするのか!?
『おっしおきぃ』
『あぐっ』
ぱかんと景気のいい音が鳴った。
懐に入られた上馬鹿げた柔らかさをもつ股関節を使い、垂直真上に向かって蹴りを繰り出した奴に顎を砕かれやがった。
これで増援の8人全てやられちまった。
俺はどうする。
みつからねぇようずっと柱の影で震えてた俺はどうすればいい?
腕には自信がある……いや、あった。
大抵の奴には負けない自信があった、あの怪物共にもだ。
だがあいつは規格外だ。
拳一つでビルを支える鉄骨入りの柱をへし折る奴なんて相手にしたくねェ!
『さぁて、これで全部かしらぁ?』
そうだ。全部だ。
もうなにもしねぇからどっかに消えてくれ……ああ、頼む!!
『つまんないのぉ。しどぉ探そぉ』
あいつ……あれだけ暴れておきながらなんてこと言いやがる。
だが……足音が遠のいていく。
ふふ、はははは……。
だめだ、心の底から安心しちまってる。
もうあの化け物の相手をしなくてもいいことに天にも登りそうな気分に……。
俺は少しずつ息を吐きながら柱を背にしてズルズルと座り込んだ。
どっと疲労感と嫌な汗が吹き出てくる。
笑っちまうぜ、こんな気温だってのに。
……。
『はろぉー。食べ残しはよくないわよねぇ』
『はぁッ!? なんだくそオイ消えたんじゃ……ウワアアアアアアァァ!!!』
このクソ寒い中でしこたまウォッカを呷った後の悪夢を見ているかのようだ。ああ、神様……。
……。
ごつん、と。
割と容赦のない拳骨の音が前線基地の一角に響く。
「いっ……たぁい! ……泣きそぉ!」
「あれだけ動くなって言ったろ。ほんとお前はもう……手ェ焼くわ」
頭を押さえて目に涙をいっぱいに溜めながらうずくまるガーネットに対し追い討ちをかけていく雛樹。
ミスは許すが言うことを聞かないのはおいそれと許すことはできない。
それが結果としてよかったとしても、いつでもよかったと言える結果がついてくるとは限らないのだから。
「しどぉだってあたしが動いたから助かったでしょお!」
「被害を大きくしすぎなんだよ。何人大怪我させた」
「それは弱いあっちが悪」
そこで雛樹はもう一度ガーネットの頭に拳をくれてやった。
「あ゛ーーーーーーーーー!! また殴ったぁ!!」