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24話ー瓦礫の中にいるー

「……寒ッ」


 ハッチを開けた瞬間凄まじい寒風が吹き込んできてコクピット内の暖かい空気を全てかっさらっていった。

 寒暖差が激しいこともあり、体感温度は実際より低く感じる。

 もはや痛いとでも形容できそうな刺すような冷たさを受けながら瓦礫の山の中に這い出した。


 頭上でハッチが解放された音が聞こえた。

 油圧による力強い解放音は4脚機甲兵器のものか。

 雛樹は積み重なった瓦礫の隙間を縫うようにして動きながら息を潜めた。


(機体から降りた……着地音が軽い、女か? 武装は……どうだろうな)


 4脚機甲兵器に搭乗していたのは女性のようだ。

 足音から察するに瓦礫の上を歩いている、ということは瓦礫の山の中にいる自分が圧倒的に不利ということになる。

 

 だがこちらの居場所を悟られない限り、気づかれずに脱出することも可能だろうが……。


(ここからは通れないな……)


 瓦礫が緻密に積み重なり、通れない場所が出てきた。

 戻っても脱出できないため力ずくにでもこじ開ける必要がある……が、無理にいくとさらに崩れてどうしようもなくなる可能性があった。


 腰に装備していた手榴弾を取り出し、しばらくそれを見つめ……。


(多少強引なやり方になるけど……行くか)


 そして雛樹は手榴弾のピンに指をかけた……。



『想定していたより派手に崩れた……。クソが、無茶なことしやがって……』


 肌に張り付くようなぴっちりとした黒のスーツの上に厚手のジャケットを羽織り、フルフェイスヘルメットを被った女性が銃を構えて悪態をつきながら瓦礫の山の上を歩いていた。


 時折足を止めては伏せて瓦礫に耳を当て、音を探る様子を見せていた。

 おそらく下にいるであろう黒い機体の搭乗者のことを探っているのだろうが……。

 

『……?』


 その時だった、瓦礫の下からガランと何か金属質な物が転がる音がしたのは。

 その音に誘われて足を進めた三秒後その音のした方向で何かが爆ぜ、瓦礫が吹き飛んだ。

 まさか瓦礫の山から脱出するために爆弾を使い、瓦礫を吹き飛ばしたとでもいうのか。


 爆破のあった場所に銃を向け、息を飲む。

 爆破の影響か吹き飛んだ瓦礫以上の瓦礫が崩れ流れ込んできている。


『自決したか……? 驚かせないで……』


 と、背後で不可解な音がした。何かが解けるような、溶けるような不可解な音。

 急いで振り返ろうとしたが遅かった。


 すでに背後から男が瓦礫の山から飛び出て自分は羽交い締めにされていた。


『ぐっ……クソ、離せこの野郎!!』


「悪いな、おとなしくしてもらおうか……!」


『日本語……!?』


 そのロシアの女兵士は羽交い締めにされながら、自分にかけられた言葉を理解した。

 通信が通じなかったのはこいつが日本人だったからか。


 だがそんなことは今はどうでもいい。

 羽交い締めにされたまま、足先をとんと地面に叩きつけて仕込んでいた刃をせり出させた。

 そしてバレエの踊り手かと言うほどに柔らかな股関節を使い、自分の肩口に向けて足をあげ蹴りを繰り出したのだ。


「くおッ……!」


 雛樹はとっさの判断で羽交い締めを解き、後方に跳ぶ。

 そうしなければ間違いなく目をやられていただろう。


 解放されたフルフェイスヘルメットの女性兵士は雛樹の方へ振り向きざまに持っていた銃を向けた。

 

 しかしそれを予見していた雛樹は羽織っていたジャケットを脱いで闘牛士の赤いマントよろしく広げて自分の身を隠し、発砲してきた銃弾を捌く。


「……! ……!?」


 女性兵士は次弾を撃とうと引き金を引いて困惑した。

 銃のスライドストップが起動してスライドが戻っていない。これは弾切れのサインなのだが、弾倉には麻酔弾10発が装填されていたはずだ。


「お探しはこれか? 申し訳ないな、手癖が悪くてさ」


 そう言っておちゃらけながら女性兵士に見せたのはその女性兵士が持っていた銃の弾倉だった。

 羽交い締めにした際に抜いておいたのだが、チャンバー内の物を抜く前に離れてしまったために一発撃たれることになってしまった。


「抜け目ない日本人だ、腹がたつ……!」


「! なんだ、日本語話せるのか……!」


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