23話ー極寒の中の戦いー
まあ、この程度の薬効かないけどぉ。
そう言って彼女はアンプル型の弾を地面に叩きつけ破壊した。
薬が効いていない、そう判断した3人の兵士たちは廃墟の柱の裏にそれぞれ身を隠し麻酔銃の銃口を向けてきた。
「ロシア語ってどんなだっけぇ……たしかあたし話せたはずぅ……」
と、ガーネットはステイシスデータと呼ばれるガーネットのもう一つの脳にアクセスし知識を探る。
そして……。
『ごきげん、よぉ、私に薬は効かないわよぉ』
とりあえずまだ話し慣れていないロシア語で意思疎通を試みた。
『……! 貴様らは何者だ!? どこの所属だ、答えろ!』
(あ、通じたぁ)
ガーネットは自分の言葉が通じ、それに相手の言葉も聞き取れていることを改めて認識し、隠れもせず自分の身をさらけ出させながらロシア語で堪えた。
『あたしは海上都市の夜刀神PMC所属、ガーネット。都市側から情報送られてなぁい?』
『夜刀神……? 調べられるか?』
『了解、ちょっと待って』
まるで話に聞く職務質問でも受けているようだとガーネットは肩を竦めた。
雛樹がいつも銃を携帯しているため街を歩いているとよく受けると言っていたのだ。
『嘘だ。方舟側から送られてきた人員データにそんな奴はいない。夜刀神PMCに所属している兵士は一人、シドウヒナキという男性兵士のみだ。黒の機体と共にいたことといい、四十夜の福音の構成員かもしれない』
『だそうだ、我々は貴様を拘束する』
(あ、そういえばあたし正式に所属してたわけじゃなかったぁ)
方舟常駐の最高戦力であるステイシスがこちらに来ているなどという情報はもちろんのことながらロシア政府側には伝わっていないだろう。
それに四十夜の福音と誤認されている可能性があるというのも痛い。
『ふぅん……じゃあ好きにすればぁ? 言っとくけど、あたし結構強いわよぉ?』
『それはこちらも同じだ。極寒の中鍛えられた精鋭達だ、下手に抵抗して怪我をしないよう精々気をつけることだな』
『へぇ……ちょっと昂ぶっちゃうわぁ』
今現在、ガーネットに肌の露出はない。
この極寒の中で肌を隠すように厚着しているためだ。
と、いうことは素肌を直接当てて相手にグレアノイドを感染させる心配はあまりしなくてもいいことになる。
ただし、身につけているものはただの防寒具でありグレアノイドの生体侵食を完全には防げるものではないため、長く触れていれば感染する可能性は十分にあるが……。
『あっはぁ、じゃあちょっとだけボッコボコにしてあげるぅ』
ガーネットは今までの失敗の鬱憤を晴らすために拳をふるうことを決めてしまっていた。
……。
コクピットの明かりが完全に消え、明滅するモニターには何も映っていない。
凄まじい瓦礫が落ちてきて、こちらを押さえつけに来た4脚の機甲兵器もろとも直撃を受けた。
巨大な瓦礫と4脚機甲兵器に押さえつけられたままのため機体を動かすことができない……。
だが、寸前のところで背部のハッチを開けられるよう姿勢を変えることができたため脱出はできる。
外の様子を伺っている場合ではない。
ガバメントのスライドを引いてチャンバーに弾薬を送り込み、最低限の装備を持ってハッチを解放した。