22話—崩落—
何度か外から砲撃を受けたが壁が盾になって直撃はしなかった。
相手が沈黙しないことを見ると確実にここへ入ってくる。
そしてそれは雛樹の予想通りだった。
廃墟の床にヒビを入れながら4脚の機甲兵器が入ってきていた。
まだ音しか聞こえないがかなり警戒しているらしく、ゆっくりとにじり寄ってくるような様子に感じた。
おそらく乱雑に崩れた壁のせいでこちらの場所を細かく特定できないでいるのだろう。
(こっちだ、来い……来い……!!)
下げていたライフルの銃口を音を立てないようゆっくりと上げていき、柱の一本へと照準を合わせた。
まさに祈るように敵機の機影が見えることを思い、引き金に指をかけた。
がしゃり。
床に散らばっていたガラスの破片ごと床を踏み鳴らした4脚機甲兵器の脚先を視認した。
直後、2本の柱に絡めていたワイヤーを同時に巻き上げ、柱を半ばから崩す。
さらにライフルの引き金を引き、砲撃とも取れる発砲音と共に複数の火線が最後の柱を蜂の巣に仕上げた。
崩れる——……。
瓦礫が互いにズレ擦れる音がし、勢いよく上階の床が落下する。
これで奴がこの崩落に巻き込まれてくれれば行動不能なまでには追い込めるはずだ。
さあのんびりしている場合ではない。このままでは自分も巻き込まれてしまう。
旋回し、背面スラスターを全開にして外に飛び出すだけだ。
何も難しいことはない。
だが……旋回し回転する外の風景の中に未だこちらに向けて鋭い青い光を見せてくる4脚兵器の目があった。
「なッ……!? 飛び込んで来るつもりか!?」
この崩落の中、来た道を戻らずさらにこちらに向かって踏み込んできた。
逃がさない。何が何でも喉笛を食いちぎってやる。
そんな物騒な意思が目に見えるようだ。
「マズイ——……!!」
旋回が終わる前に横合いから凄まじいタックルを喰らい床を抉りながら転倒。
保持していたライフルは取り落とし床を滑り瓦礫に潰されてしまった。
ノイズ混じりに明滅する外部モニターには口を大きく開けて金切り声を上げる4脚機構の頭部がありありと映し出されていた。
「離せ、この!! このままだと互いに潰されるぞ!」
完全にマウントを取られてしまっている。
蹴り上げて引き離そうとするも脚部すら押さえられ身動きが取れない。
4脚機甲の頭部越しに落下してきた巨大な瓦礫が目に入った。
そして……支えを失った廃墟ビルは凄まじい轟音をたて雪を舞い上げ大崩落を起こした。
2機の機甲兵器を潰すように下敷きにして。
……。
「……なんの音ぉ!?」
動かなくなったペイブロウから降りたガーネットは厚手のパンツと海上都市の最新繊維技術を駆使して作られた防寒ジャケットとタクティカルグローブ、長めのマフラーを巻いた格好をしていた。
雛樹を援護するために走っていたのだがとんでもない崩壊音がし、足を止めて音がした方を確認した。
だがまだ降りしきる雪により舞い上がった煙しか視認できない。
「もお、大丈夫かしらぁ? 狙撃はされてないはずだけどぉ……」
ペイブロウを降りた後、真っ先に向かったのは狙撃用装備を搭載していた敵機の元。
機体そのものをどうにかしたわけではなく、狙撃銃のみを物質化光した爪で細切れにしてやったあとベリオノイズの元へ急いでいたのだ。
だがその音で足を止めたのが命取りになった。
消音器付きの銃器の発砲音が聞こえたかと思えば、自分の腕に何かが突き立っていた。
「んっ……!?」
急いでそれをひっつかみ、自分の腕から抜いて確認する……。
「これ……鎮静剤か麻酔の類かしらぁ」
アンプルのようなものが備えられた矢のようなものが自分の腕に刺さっていた。
そして発砲音のした方向には頭部を完全に覆うよう作られたバラクラバとゴーグルを着用した兵士の姿が3人分見えている。
「ふぅん……。やるじゃない、あたしに撃ち込めるなんてぇ」