16話ー隠密行動ー
点灯していた前照灯を消し、一定の感覚で点滅を続ける光源を確認し続ける。
おそらくこちらが身内かどうか確認するための信号なのだろうが下手に答えてしまうとろくな結果にならないのは目に見えていた。
ここから離れようにもペイブロウの稼働時間を考えれば得策ではない。
このままおとなしく気配を消しどこかへ行ったと思ってもらうしかないだろう。
雛樹自身も甘い考えだと思ってはいたがこれ以外に動きようがないのだから仕方ない。
エネルギー出力も落とし稼動音を最小限に。
パノラマモニターのみ起動させたままコクピット内の照明も何箇所か落とした上で空調も切った。
外から聞こえてくるのは寒々しい吹雪の音。
声を出さず息を潜め、みるみるうちに落ちていくコクピット内の気温に比例するように息が白み始めた。
やがて外の吹雪の音より自らの心音の方が気になりだした頃……。
相手側も諦めたのか光源の点滅を止めて光を消した。
「消えたな……」
《消えたぁ。どうするのぉ? 動くぅ?》
コクピット内のため小さな声で話す必要はないのだが、二人して小声で話してしまっている。
ペイブロウは出力を落とし待機状態にあったため稼動時間が少しばかりではあるが回復しているため、動こうと思えば動ける状態にあった。
二脚機甲はそれ単体で動き続けるために原動核からのエネルギー供給を常に行っている。
つまるところ外部からのエネルギー補給は必要としない。
フォトンノイドコアを採用しているウィンバックアブソリューターなどはその自己完結型供給機関の最先端である。
エネルギー供給量が大きく、普通に稼動しているだけならばエネルギー切れになる心配はない。
ただし激しい戦闘を行いコアからのエネルギー供給を上回る場合は別だが。
さらに上をいくエネルギー供給率を誇るのが今や設計することすら禁止されているグレアノイドコア。
方舟の最高戦力ステイシスが搭乗するゴアグレア・デトネーター及びベリオノイズに搭載されているものだ。
「いくらか回復したのか……?」
《20分は動けそぉ……戦闘システムに切り替えなければだけどぉ》
「切り替えたらどれくらいだ……?」
《半分くらい……》
ペイブロウが採用しているのは言わずと知れた昔ながらの原動力、原子力炉だ。
メンテナンスコスト、破壊された際のリスクやエネルギー供給効率の観点から今や使用されることは少ないものだがある程度のエネルギー供給は可能だ。
しかし現行の物よりすこぶる性能は落ちるが。
「了解、静かに東側へ移動しよう……」
《あはぁ、なんだかこういうの新鮮でどきどきするぅ》
「してる場合か……。ああ、本土でコソ泥やってた時を思い出す……」
再びエネルギー出力を上げて壁を背にして見つからないよう移動を開始する。
……と共に。
なにか花火が打ち出されたような音が数回、外部マイクを通して聞こえてきた。
雛樹は肩をビクつかせ、慌ててその音の方向を確かめた。
それは何筋かの光の筋となって……自分たち2機の頭上の空で止まり。
強烈な白い光を伴って広がり、周辺を広く広く照らし出した。
それはベリオノイズとペイブロウの影を深く深く雪原に落とし込み……。
「うっそだろ照明弾だ、あぶり出される!!」
なりふり構っていられない。
このまま見つかるくらいなら急いでここから離脱したほうがいい。
だが直後、凄まじい火力で弾幕が張られた。
戦車の装甲すら撃ち抜くであろう大口径バルカン砲と、この凄まじい吹雪の中でも正確に落としてくる迫撃砲の雨あられ。
二脚機甲に対する高性能レーダーなど持っていないはずの方舟外の軍部がなぜここまで正確に撃ってこられるのかが不可解だ。
隠れていた廃墟など一瞬にして蜂の巣にされ砂の城でも崩すかのように消えてしまい、ペイブロウもベリオノイズも射線上にさらけ出される。
一旦射線上から逃げるようにして迫撃砲の爆発の中廃墟を壁にして移動していたが……。
《しどぉ、悪いお知らせぇ》
「これ以上に悪いことがあるのか!?」
《あるぅ。二脚機甲の起動反応ぉ》
「おいおい何機分だ!?」
《んー……多分6機ぃ》
火線の向こうで所属不明の二脚機甲の起動を確認。
メインカメラの青い光がちょうど6機分こちらに向いて点灯していた……。