14話ー落下後ー
踵の後ろにも装備された機体固定用のバンカーも打ち込んだにも関わらず、崖際へゆっくりとだが確実に引き込まれていく。
前面スラスターの出力が極端に落ちているせいで推進力を利用して引き上げることも難しい。
そもそもパイルバンカーを打ち込んだのが雪原なのだ。
下層に行くほど硬くなっているとはいえ、固定するにはあまりに心もとない。
ベリオノイズのHUDには機体が支えている重量と各部にかかっている負荷が細かく表示されているが、このままだと高負荷がかかっている脚部と腰部、腕部に異常をきたすとゆっくりとしたテンポのアラート音と共に警告してきている。
「うるさいな……ッ」
異常なほどに重い操縦桿の状態維持機能を利用し一瞬だけ手を離しアラート音を切った。
ガーネットの方も宙づりになりながら壁に足をつけて背面スラスターを全開にしなんとか登ろうと試みるが
全く上がらない。
《しどぉ、このままじゃ……!》
「わかってる! わかってるんだがどうしようも……!!」
どうしようもない。
ハーケンにも機体重量により相当なテンションがかかり固定されており、今更外すこともできない。
結局のところ機体をかろうじて支えていたバンカーが根こそぎ外れてペイブロウもろともベリオノイズは深さ100メートル以上はあるであろう谷底に落下してしまったのだった。
……。
その落下から約2時間後、雛樹は真っ暗になったコクピットで目を覚ました。
空中での機体姿勢を自動で補助するシステムが組み込まれていないベリオノイズは落下の衝撃をもろに受けてしまうと、本来ならば機体ごとコクピットはぺしゃんこに潰れていてもおかしくなかった。
しかしそうなっていないところを見ると一応のところは助かったのだろう。
360度パノラマ外部モニターとマイクを起動させ、一度外の様子を伺う。
外からはかなりの水量が流れている川の音が聞こえ、それ以外の音は一切その音にかき消されてしまっている。
GPSの情報から、落下地点からほとんどずれていない。
谷底を流れる川は水量が多く機体の半分ほどが浸かるくらいには深いが、それでも流されるほどではなかったようだ。
《しどぉ起きたぁ?》
「ああ……うん。なんとか」
《ごめんなさぁい》
モニターに映ったガーネットは随分としゅんとしていて元気がない。
それもそうだろう。落ちた原因となってしまったのだから。
「大丈夫だ。誰だって失敗はするし……まだリカバリーはきく。あとどれくらい動く?」
《しどぉの機体支えるのでかなり無理したからぁ、移動するだけであと30分ほどぉ……》
「思ったより厳しいな。外の気温は……氷点下10度か。機体の中で過ごすのもいいけど……」
周辺のマップを衛星から取得し、人が多く住んでいるであろう町を探す。
すると運のいいことにこの谷底の川を下っていったところに比較的大きな町が存在していた。
30分以上はかかるため、一旦ペイブロウはどこかに隠して置いておかないといけないだろうが……。
「位置情報をそっちに送る。中継地点にいくのは一旦諦めて川を下ってこの町に行こう」
《ん、さんせぇ》