13話ー大事故ー
……ーー。
ほかの部隊が第2中継地点でとっくに休みを取っている頃、弱小PMC所属の2機は困窮していた。
《ルートはかなりズレてるが問題ない。そのまま中継地点で待っていてくれ》
葉月に心配をかけまいとそう連絡を入れたのももう3時間前。
突如として現れたΔ級ドミネーターと一戦を交え、ほかの部隊と同様に第2中継地点へ向かおうとしていたベリオノイズ搭乗の雛樹とGn-IIIペイブロウ搭乗のガーネットだったがひとつ大きな事故に遭ってしまった。
吹雪の中進んでいたのだが、目前に巨大な谷がありそれを超えなくてはならなくなった。
谷幅は百メートル以上、深さはそれ以上もあり橋を探すのが賢明ではあるが二脚機甲でなら最大加速からの跳躍で渡りきることも可能だと踏んだ。
そもそもペイブロウの稼働可能時間が限界に来ていたのだ。
悠長に橋などを探している余裕などない。
「こいつなら大丈夫だろうけど……そっちは大丈夫なのか? 跳べるようにはできてないんだろ?」
《搭乗者の腕次第ってとこぉ》
「つまり大丈夫ってことか」
《あっは、そゆことぉ》
先にベリオノイズがスラスターで加速をつけて持ち前の跳躍力で跳ぶ。
超重量の金属の塊が灰色の空に弧を描き、対岸に着地。
着地の衝撃で地面が捲れ上がり、慣性に従って十メートル滑ったところで雪をこれでもかと抉りながら止まった。
ガーネットはベリオノイズの着地を確認した後、コントロールモニターで機体各部の状態を映し出させた。
そして機体のバランスを整えるための重り……いわゆるスタビライザーをいくつか切り離した。
その一つ一つが1tを軽く超えるものであり、できる限り重心が上方に移動するよう調整。
調整した上で切り離したスタビライザーを腕に装備されたカタパルトで射出させて対岸へ放り込む。
《いっくわよぉ》
空中投入される際に使用される申し訳程度の滑空翼を腰辺りから展開させてからスラスターの出力を最大に。
グンと前からGがかかり、急加速しながら今までいた地面と別れ一時の浮遊感を味わった。
空中でも操縦桿を握りスラスターの操作を細かく修正しながらギリギリではあったが対岸へは着地できた。
《ほらぁ、いけたでしょお。かなり稼働時間削られちゃったけどぉ……お?》
「ヤバイ……ッ!!」
ぐらり。
ペイブロウの体勢が大きく後ろに崩れた。
それを確認した雛樹は口よりも先に操縦桿を動かしており、左腕部と両腰部にあるハーケン射出装置を作動させ、同時に右腕部のパイルバンカーを深く雪原に突き刺し起動させていた。
よく見なくてもわかる、ペイブロウの足元が大きく崩れたのだ。
《やっばぁ……!》
間一髪で谷に落ちたペイブロウの機体をワイヤーで繋ぎ止めることに成功。
ペイブロウ自体は宙吊り状態となり崩れ落ちる岩盤とともにズリズリと落ちる。
ベリオノイズから射出されたワイヤーは強力なストッパーパーツによって巻き止められているがそれでもペイブロウの機体重量を支えきれず耳をつんざく金属の擦過音を鳴らしながら火花を散らせている。
平均的な現行二脚機甲の機体重量は約250t程。
それに対しベリオノイズの機体重量は約180t。
ペイブロウは約400tの超重量だ。
あまり装備を積んでいないためというのもあるが、比較的軽いベリオノイズではペイブロウの機体重量を支えきれない。




