10話ー兵舎での休息ー
簡易式とは思えないほどの堅牢さと居住性を兼ね備えたセンチュリオンテクノロジー製の兵舎では、この中継地点に到着し疲労困憊の様相を呈す二脚機甲部隊の面々が休息を取っていた。
食堂ともカフェとも言える凝った作りの休息所で静流はコーヒーとサンドイッチを受け取って席に着く。
外は氷点下10度を下回る白銀の世界だというのに、ここはガスランプを模した暖かな灯りを放つ照明器具と木目張りのテーブルと暖かみのある空間である。
ちろちろと火のような灯りに癒されながら静流はコーヒーを啜った。
二脚機甲の男性、女性搭乗者問わず尊敬の眼差しを向けられ挨拶を受けて少しばかり今回のことについて話し……。
下心が透けて見える資産家の息子達とも嫌な顔一つせず対応する。
「今回の活躍もめざましいものがありましたね、結月少尉」
「いえ、今回は別段功績を上げたわけでは」
「しかしヘリックスモーリス社所属部隊の面々を救助したと」
「あれは私ではなく別の部隊の方がですね……」
まだ情報が正確に出回ってはいないとはいえ、何故不確定な情報を鵜呑みにして持て囃してくるのか。
あからさまにご機嫌とりに来ていて、そういった考えを持つ男性がそこら中にいることも分かっている。
「お疲れちゃん、結月少尉」
「ノックノック。お疲れ様です」
そんな男性たちの間を割って入ってきたのは数名の同僚だった。
アインス=ノックノック。
センチュリオンテクノロジーが所持を認められている2機のウィンバックアブソリューター、ブルーグラディウスとコバルトスケイル。
その後者に搭乗する男性パイロットである。
彼が現れると先程まであわよくば口説こうとしていたであろう男性たちは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながらいそいそと散ってしまった。
「なんやぁ。別にどっかいかんでもええやんな。喋り途中やったんやろ?」
「いえ助かりました、ノックノック」
静流は心底疲れた表情を浮かべ、髪をかきあげため息をつく。
へらへらと笑いながら席に着くノックノックとその隣にいた赤毛の可愛らしい女性は……。
「男ってほんま鈍感やなぁ。結月さんが嫌がってることもわからんやなんて」
「お疲れ様ですエリス。別に嫌がってはいませんよ、少々煩わしくは思いましたが」
その少女はアインス=ノックノックの妹、エリス=ノックノックだった。
彼女も今回の任務に二脚機甲部隊の一員として参加していた。
アインス、エリス共に後方部隊での行軍となっていたため今回のΔ級遭遇戦には不参加だった。
「姫乃さんは?」
「ああ、シャワーを浴びてくると言ってました。もうすぐ来るんじゃないですかね」
東雲姫乃は今回の任務においてブルーグラディウスの調整等で丸一日寝ていないという。
目の下には深い隈が出ておりひどい顔だったため体を温めに行ったのだ。
「大変やなぁ、東雲はん。ブルーグラディウスの機体調整ってほんま細かいんやろ?」
「コバルトスケイルと違って自立稼働する兵装が多いですからね。機体システムの調整が本当に難しいらしいです」