9話ー第2中継地点ー
事前に設定されていた第2中継地点には撤退が完了した部隊などが続々と到着していた。
だだっ広い雪原に設定された中継地点には各企業が持ち込んだ簡易式二脚機甲ドックや兵舎などが設営され、各々が慌ただしく長旅の補給を行なっている。
先遣隊の中で特に被害が大きかったモーリス部隊は自社エンジニアだけでは手が足らず、他企業のエンジニアの協力を得て帰還機体の修理に当たっているようだ。
中でも最後まで緊急作戦区域に残っていたセンチュリオンテクノロジー、及びGNCのウィンバックアブソリューターはほとんどの部隊が到着した後に空からドック入りすることになった。
「お疲れさんだったな結月ちゃん! どうだったね、グラディウスの調子は!」
ブルーグラディウスをウィンバックアブソリューター専用ドッグに格納した後、コクピットから降りてきた結月静流に専属エンジニアである初老の男が声をかけた。
「ええ、調子はとても。ムラクモの出力を上げているせいか多少粒子消費量が多くなっていますが……」
「ああ、そりゃあ仕方ねぇや。今回は寒冷地だってんで重要機関が過冷却おこさねぇよう熱持たせるパッケージ組み込んであるからよ。燃費はちぃとばかし落ちらぁな」
ぞろぞろとブルーグラディウスに向かっていくセンチュリオンテクノロジーの腕利きエンジニアたちは多少静流に視線を送り、返された会釈に鼻の下を伸ばしながらメンテナンスについていった。
「ったく、若ぇのはみんなお前さんに首ったけだからよ。気分悪くしたらすまんな」
「いえ、あの子は彼らのメンテナンスがあってこそ十全に稼働することができていることですし。多少のことは気にしませんよ」
静流は慌ただしくこちらに向かってきたブルーグラディウスのオペレーター、東雲姫乃から厚手のガウンを受け取りそれを羽織った。
「どうだったい、Δ級相手の手応えは」
「突然の会敵だったため他部隊と連携も取れない中での初戦でしたが……防戦一方でした。追尾型の攻撃をしてくるとは聞いていたのですがまさかあれほどの密度でくるとは……」
「火力不足かね?」
「火力もそうですがムラクモを防御に回しながら攻撃に移行することが難しいといいますか」
「ふぅむ……わかった。ちょいと今回のために持ってきた装備を積んでみるかね。詳細はまた送ろう。今は休んできな、結月ちゃん」
「はい、あとはお任せします」
そう言って静流はエンジニアたちに手を振って東雲准尉と兵舎へ向かう。
「姫乃、ヒナキらはもう到着していますか?」
「んーん、まだ。葉月ちゃんが言うには豪雪に脚を取られてうまく進めてないんだって」
「旧世代型のペイブロウでこの豪雪地帯は辛いでしょうしね……。流石に難しいですか」
「あんな古い機体よくレンタルできたよね。あれ誰が乗ってるの?」
「あー……まあ知り合いが。間違いなく腕は立つので心配はいらないかと思いますが」
「結月少尉がそう言うの珍しいね。そんなに?」
「ええ」
搭乗者がまさか方舟の最高戦力、ステイシス=アルマだとは誰も思うまい。
ペイブロウの機体重量を利用して超大口径ガトリングカノンを押さえつけるように使用していたのも確認していた。
並大抵の技術では砲弾を当てるどころか撃ち始めた瞬間椀部ごと捥げ落ちていただろう。