6話ー追尾ー
群れの中でこれだけ戦闘すればいやでもΔ級が目をつけてくる。
現在Δ級に攻撃を加えているGNCの特殊二脚機甲部隊はあと数分保つか保たないかといったところだと葉月から通信が入っていた。
おそらく突然現れたΔ級への対処がうまくいかなかったのだろう。
それもそのはず、名高いGNCのウィンバックアブソリューターパイロットといえどΔ級との戦闘は前例にない。
ステイシスデータから機体の戦闘補助システムにΔ級との戦闘データをフィードバックしようにも、データ自体が少なすぎてあてにならない。
Δ級がどのような攻撃を仕掛けてきてその攻撃に対しどう回避行動をとればいいのか、一般的な攻撃行動等、いわば行動予測が一切できない。
自分の実力のみが物をいう時代ではない。
現在の戦闘はより多くの情報を扱うものが勝利する。
だがそもそもその情報が無ければどうなるか。
機体と兵装、その性能に頼りきっていた兵士から脱落していく。
豚に真珠という言葉があるがまさにその通りになる。
撃墜されておらず、まだΔ級を押しとどめているというだけでもGNCのパイロットは豚ではないことは証明されているが。
突然鳴りだしたデンジャーアラートに雛樹は息を飲む。
性能の低い中古レーダーに映し出されたのは荒い攻撃波形。
それはΔ級が放った物質化したグレアノイド光による弾幕だった。
α級、β級、γ級のどれとも違うその攻撃特性は威力でも手数でもない。
その弾幕の一つ一つが目標とした物体を追尾する。
ひぃ、と声が漏れそうになったが押しとどめて操縦桿を強く握り後方へ倒す。
吹雪の中立ちすくんでいた黒い機体、ベリオノイズがとんと後方へ飛び……前面スラスターを全開にする。
雪原を滑るようにして凄まじい速度で後退するがその攻撃波形は磁石に導かれるような軌道を持って追ってくる。
鳴り止まないデンジャーアラートとみるみるうちに距離を詰めてくる追尾型グレアノイド光。
ここで雛樹はある判断を下す。
レーダーに表示されているドミネーター群の中でもより密度の高い群の中に突っ込む。
側面に配置されたスラスターを使い方向転換を繰り返し、大きく蛇行しながら群の隙間を縫ってひたすら後退する。
すると追尾してきていた攻撃がその群に突っ込み大きな爆発を起こした。
あろうことかΔ級の攻撃に自分の兵隊を巻き込んだ同士討ちをさせたのだ。
こうすることである程度の追尾弾は削ることができた。
だがまだ追ってくる。
スラスターを使用し後退しながら先ほど使用したハーケン射出機構に弾薬を再装填させ、他の二脚機甲にはない馬力を持って強く地面を蹴った。
まるで爆発でも起こったかのように雪が舞い、ベリオノイズは吹雪の空に飛び出した。
もちろんのことながら地面を這うようにして追ってきていた追尾弾は空に向かって曲線を描きながら追ってきている。
宙に飛び出し、スラスターで機体姿勢を制御しながら下界のドミネーターの群に腰と両腕に装備したハーケンの狙いを定める。
一秒が十秒にも感じる錯覚を覚えながら、息を止めてハーケンを4基同時に射出した。
群に向かって突っ込んだハーケンは3体のα級を捕らえた。
「一つ外した……ッ!!」
一つは雪原の雪を抉ったのみだったがそれでも十分だ。
ワイヤーを巻き上げるモーターが赤熱しながら駆動する。
捕らえたα級ドミネーターが一気に持ち上げられ、ベリオノイズの元へ引き寄られた。
そしてそのドミネーター3体は壁となり、追尾してきたグレアノイド光を全て受けることとなる。
巨大な爆発が起こり、ベリオノイズはさらに後方へ吹き飛ばされてしまう。
機体前面の装甲に甚大なダメージを受けながらもスラスターで姿勢制御を行う。
だが十全には体勢を立て直せず、雪原へ突っ込み数キロメートル単位で雪原を滑り転がった。