75話ーわからない感情ー
夕食が終わり皿を洗っている雛樹を横目に風呂に入りに行った。
本当は手伝いたかったが自分には驚くほど家事というものが向いてないらしく、雛樹からは何もしなくて大丈夫だからと念を押されている。
結局濡れた拘束衣でなく、黒のチューブトップブラに同色のショーツとぶかぶかの雛樹のジャケット姿のままだった。
名残惜しいが雛樹のジャケットをするすると脱ぎ、洗濯カゴに入れたあと、ブラとショーツも同じ様に脱いで投げ入れる。
「んー……」
傷がついてもすぐに修復されるためきめ細かく美しい褐色の肌。小さな尻、くびれた腰、薄く割れた腹筋、ツンと上を向くハリのある乳。腰下まで伸びた艶やかな白髪。
柘榴石の様に赤い瞳が鏡に映った自分の姿を捉える。
今まで自分の容姿のことなど一切気にしたことがなかったが……どうだろう。自分の容姿はそんなに整っている様に見えるのだろうか。
周りと比べて特殊な見た目をしているとは思ったことはあるが別段美しいなどと思ったこともない。
しばらくじとりと自分の姿を見た後、しどぉは自分の見た目のことをどう思っていたんだろうとぼんやり考えた。
やっぱり素直に聞いていた方が良かったかなと洗濯かごの前を通り過ぎる前に、雛樹のジャケットに視線を落とす。
「……」
名残惜しい。もう少しくらい……とガーネットは思う。
皿を洗い終えた雛樹はガーネットのために用意していた着替えがソファの上に放置されていることに気がつき、風呂場へと持って行ってやることにした。
換えの下着とまあまず着もしないだろう寝間着を小脇に抱えると風呂場の前まで行き、ガラリと扉を開けた。
「すぅすぅ」
「お前……全裸で人の上着の匂い嗅ぐなよ……」
「ちょっとぉ、ノックぐらいしなさいよぅ。1日で何回私の裸見るわけぇ」
「着替え置いてったろ。どうせびっしょびしょのまま全裸で取りに来るんだから」
「そうだけどぉ。しどぉは私の裸見ても何も思わないのぉ?」
「ええ……今更そんなこと聞いちゃうのか。散々真っ裸見せつけてきたくせに」
「はあーっ!? 別に深い意味ないしぃっ。もぉいい!」
ぺいっと雛樹のジャケットを洗濯カゴに投げて持ってきてもらった着替えをひったくった。
と……そこで雛樹から思いもよらない言葉を聞く。
「綺麗だと思ってる。ターシャといい勝負だ。あいつも美人だからな」
「は……うん……分かったぁ。分かったから扉閉めてぇ」
「ん、ゆっくり暖まれよ。今日は随分体冷えただろうから」
そう言って雛樹はガーネットに着替えを渡し、扉を閉めた。
ガーネットはニヤつきそうになる顔を無理に堪えて風呂場に入ると体を洗うこともせず湯船に飛び込み頭まで浸かり、しばらくぶくぶくとした後。
「……はぁー。なにこの感じぃ……しんどぉい」
自分でもまだまだ理解不明な熱い感情が制御しきれず、ぐったりと湯船に体を預けていた。
……。
結局風呂から上がった後、下着のみ着て雛樹のベッドに飛び込み、雛樹が風呂から上がってくるのを待った。
「またお前自分のとこで寝ないのか?」
「今日はそういう気分なのぉ」
「いいけど毛布奪うなよ?」
「寝相は雛樹の方がやんちゃでしょお」
「寝相がやんちゃってどういう表現だよ」
うつ伏せでぱたぱたと足を振っているガーネットはにひひと悪戯っぽく笑い、ベッドの縁に座った雛樹に言う。
「明かり消すぞ」
「はぁい」
そして一枚の毛布を二人で被り、眠りにつく。
お互いに疲れていたためか一言も交わさず、静かに夜は更けていく。