74話ー説教ー
事務所に戻り、メインイベントがやってきた。
ガーネットへの説教である。
ガーネットは嫌われたくない一心で雛樹にしがみついてこようとしたが雛樹はそれを拒否し、ソファーに座らせ、自分たちはその向かいに座って今回のガーネットの単独行動についてだめだったところとしなければならないことを、怒鳴ることなく諭すように柔らかな口調で伝えた。
ガーネットはそれを手近にあったクッションを抱き込んで口元を隠し、涙を目一杯にためてしゅんと大人しく聞いていた。
実のところ、怒られるというのはガーネットにとって初めてのことではなかった。
実験や研究を繰り返し行われる中で、ほとんど罵詈雑言とも言える言葉を研究者達からぶつけられていたのだから。
すぐに制御不能になる不完全で危険な生物兵器相手だ。仕方ないこともあったが……。
その罵詈雑言を言う研究者たちの目には例外なく自分への嫌悪感が見て取れた。
「祠堂君、これくらいにしてあげましょう。反省しているみたいだし……」
「……反省してるのか?」
「ぅん……」
「ん、じゃあ言いたいことはこれくらいだから。腹減ったろ。何か食いに行くか?」
「行くぅ」
雛樹と葉月の説教を受けてみて分かったが、彼らの怒り方や態度から一切として嫌悪感が感じ取れなかった。
本当にじぶんのことを心配しているからこその説教。嫌われるという言葉からは程遠い怒られ方だった。
「社長も行くか?」
「私はもう少し仕事が残ってるから遠慮しておくわ。あ、今回使った散弾銃とか出してもらえる? あれレンタル品だから返さないと……」
「あ……あれ海水に浸かったから手入れしてから返す」
「そうね、そうしてくれると助かるわ。……壊してないわよね?」
「大丈夫。かなり深いところの海水だったし錆びて使えなくなるなんてことはない筈だ……多分」
「多分って、勘弁してよ。買取になったらそこそこ高いんだから」
デスクに座って端末を立ち上げ、立体モニターとにらめっこを始める葉月は最後にお疲れ様、今回もいい仕事してくれてありがとうと丁寧に言ってきた。
それを聞きながら雛樹とガーネットはすっかり暗くなった外に出て……。
「……」
すっかりしおらしくなったガーネットの頭をぽんぽんと優しく叩き……。
「どこ行こうか」
「しどぉが作ったご飯がいい……」
「いや……多くはないけど金も入ったし疲れたし、何か食べに……」
「あたしも手伝うからぁ」
「ええ……お前皿の数減らす事しかできないだろ」
「……」
「う……仕方ないな。分かったからあんまりしがみついてくるな。買い物いくか」
ガーネットが腕しがみついてきているが正直その力は関節がおかしな方向にひん曲がりそうなくらい強い。
怒った手前、あまり邪険にはできないがこの無言の訴えは正直勘弁してほしい……。
結局この日は雛樹の作る味が濃すぎるカレーになった。
まだまだ料理はあまり上手くない雛樹だったが、ガーネットにとって一番落ち着く夕食の席ではあった。