表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
216/307

53話ー向けられたくない敵意ー

 そう、ドミネーター因子を取り込むということはそういうことなのだ。

 人ではない何かになる。

 手に入れられるものは強大な力、崩壊する体、延々と続く痛み。


 そのどれもがロクなものではない。

 それは雛樹自身が一番よくわかっている。

 自分の足元に横たわるこの本土兵も、あれだけ散弾を食らいながら喉や肺からごぼごぼと血の泡を噴き……まだ息をしている。

 しかし体のグレアノイド化と崩壊は始まっていて、放っておけばそのまま死にゆくだろう。


 そんな化け物を見ながら雛樹はいらぬ過去を思い出してしまう。

 この足元の肉塊はかつての自分を思い起こさせるからだ。

 そう……CTF201が特殊なドミネーターにより壊滅したあの時を。


 ……−−。


 ごぽり。

 そんな音を立てて見た目麗しい褐色の少女の小さな口から大量の血液が漏れた。

 

 腹部に突き立つ赤い光を放つ槍で壁にはりつけにされた彼女は咳き込みながら言う。


「……しどぉ、どうしてよぉ……」


 今にも泣き出しそうな声で目の前の怪物に問う。

 感覚を頼りに6年後、怪物になった彼に会いに来た。

 どうしてそうなってしまったのか、いったい自分たちはどうなってしまっているのか。

 正気を保っているとは思えないがもう一度会えば何か話してくれるような気がしていた。


 だがそれは見事な勘違いだった。

 話す……どころか。


 ありったけの敵意を持ってガーネットを……ステイシスを排除しようとしてきた。

 かつて共に生きていたとは思えない、清々しいほどの敵意だった。


 この黒い鎧をまとった獣のようなドミネーターは間違いなく祠堂雛樹だ。

 面影など一切ないが、今目の前にいる彼の気配を間違えるはずはない。


 圧縮グレアノイド粒子による光弾と赤光の槍、さらには凄まじいほどの俊敏性から繰り出される巨大な体躯での刺突。

 

 いくら攻撃されてもやり返すことをせず、全力で回避しながら声をかけ続けた。

 方舟の最高戦力が回避に全力を傾けているにもかかわらず現状の体たらく。


けぽっ……。


 己の腹部に突き刺さった赤光の槍を両手で掴み抜くことで内臓に溜まった血液がせり上がり、口から溢れ出た。


 しかしその傷はゆっくりとだが塞がっていく。


「痛い……痛い痛いぃ……」


 血反吐を吐きながらもドミネーターの攻撃を避ける為、大きく後方に飛んで回避行動を取った。

 頭の中がぐるぐるする。あれは祠堂で間違いない。だが何故ここまで敵意を持たれているのかわからない。

 自分のことがわからないのか、もしくはわかっているからこそ攻撃してきているのか。


「なんで……しどぉの筈なのにぃ……」


 間違いなく彼の筈なのになぜか拭えない違和感。

 純粋な敵意の意味を知る必要がある。


 だがそろそろ限界だ。

 端的に言えば目の前の怪物を壊したくなってきた。

 あれはしどぉだと必死に自分に言い聞かせて攻撃は一切加えないでいたが精神的に追い込まれていることで正常な判断ができなくなってきていた。


 方舟の最高戦力、兵器としての本能が表層化しようとしている。


 もうこの怪物の前に長居はできない。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ