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41話ー失踪ー

 同じ車両に乗っているRB軍曹は雛樹の様子がおかしいことに気づいてはいたが、一切としてその理由を聞こうとはしなかった。

 彼なりの気遣い……ということではない。

 気にしたところで意味は無く、任務に対し関係のないことをなぜ気にしなければならないのか。


「……」


 雛樹が多少なりともの不安を表に出すことは珍しい。

 現状、一緒にいる相手が信用できるであろうRB軍曹でなければ、気を張って一切そういった感情は悟られないようにはしていただろうが……。


(無茶するつもりじゃないだろうな……あいつ)


 どんな小さな任務であろうと、いつも付いてきていたガーネットがここにきて留守番していると言った時からなにか違和感を感じてはいた。


 だが、まさか……朝起きるといなくなっているとは思わなかった。


 昨日の夜……確かに様子がおかしかったが……。


……。


【んしょ……】


 自宅、暗くなった寝室で気の抜けた声が頭の上で聞こえた。

 ガーネットが雛樹のベッドに潜り込んでくる時の声だ。

 少し前までは『しどぉ、入っていーい?』などと許可を取ってきていたのだが、今やそれはなくなり、当たり前のごとく自然に入ってくるようになった。


 そしてさらに前までは全裸で入ってきていたのが、黒のショーツとチューブトップブラを身につけている。

 これは随分文明的な進化を遂げたと言えるだろう。

 まあその進化に至るまでの内訳は雛樹の躾が2割、最近かぶりつくように見ていたテレビ番組で、下着をつけないと胸の形が悪くなるなどという情報が8割方。


 相変わらず肌の露出を好む傾向にあるため、ショーツとブラの防御力は限りなく低いのだが。


 布団に潜り込むと、仰向けに寝ている雛樹の腕を抱きこみ、大きく深く息を吸ってゆっくりと吐く。

 筋肉質な雛樹の腕の感触と、匂いをいっぱいに感じながらだとよく眠れるそうだ。


【しどぉ……ねてるぅ?】


【寝てるから起こすなよ……】


【おきてるぅ】


 ぐりぐりと頭を押し付けてくる。

 それを雛樹は煩わしそうにしながらも閉じていた目を開けた。

 なかなか聞くことのない、ガーネットのため息を聞いたからだ。


【ため息なんてらしくないな。どうした?】


 雛樹は上半身を起こして、まだ寝そべるガーネットを見下ろした。

 月明かりを綺麗に反射し、淡く光る純白の髪が無造作に広がっている。その髪の隙間からは赤い瞳が切なげに覗いていた。


 その瞳がちらりとこちらに向けられ、そしてまた戻される。

 艶めいた唇が何かを言いたげに開くが……くっと閉じられた。

 なんだ、なにか言いたげだな。雛樹はそう察したが……。


【明日は早いんだ。もう寝るぞ……】


 少しばかり開いていたカーテンを閉め直し、今や眩しい月明かりを遮った。


【おやすみぃ、しどぉ……】


【……ん】


……。


 あのため息の意味と自分に何かを言いたげだったことを踏まえると……。

 いや、間違いない。

 自分の考えが当たっているのなら。


 ガーネットは間違いなくあの日現れた異形と化した祠堂雛樹を探しに出たのだろう。


 一応夜刀神事務所に一報入れてはおいたのだが。


【だめね。今色々と調べてみたけど褐色白髪の少女を見たなんて目撃情報はないわ。都市中にあるカメラ映像も漁ってみるけど……】


 朝早いのもあってか寝起き声ではあったが、事の重大さをかんがみた葉月はすぐに都市中のネットワークを調べ、ガーネットの目撃情報を探した。

 だがそこから探し出すのは難しいだろう。

 黙って出て行ったということは、足がつくとまずいということ。

 ガーネットが自分の居場所を悟られるような跡を残すとは思えない。


 外には出ておらずとも、ステイシスサーバーを介して都市中の地理は把握しているだろう。

 もちろんカメラの位置もドローンの偵察ルートも。


【でもそうね……間違いないでしょう。彼女が6年後の貴方に会いに行ったことは】


 祠堂雛樹のそばにいなくても大丈夫。

 それもそうだろう。今この都市には、祠堂雛樹は二人いるのだから。


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