40話ー準備ー
雛樹を負傷させたさっきの今だ。
頭をぽんぽんと叩いてくれただけでもまぁ良しとしようと思ったのか、あまりしつこくは求めない。
いや、多少むすっとはしているが。
ほんとはめちゃくちゃ撫でて欲しいが。
「取り急ぎ、任務に必要なものは揃えるわ。ある程度リストアップしてみたから確認して頂戴」
「流石、準備いいな」
「あたしも見るぅ」
送られたデータを、目の前に出力した立体モニターに展開した。
ガーネットも確認したいと言い出したため、雛樹は同じ内容のモニターを複製しようとした。
しかしガーネットはソファーの背もたれを持ち、羽根のような軽やかさで後ろに一転すると雛樹の背後に移動。
そのまま背もたれ越しに雛樹の肩にもたれかかって一緒にひとつのモニターを見た。
「FN P90とFiveSevenか」
どこかモチベーションの低下を思わせるような声色で雛樹が言う。
それに対し、その装備を用意しようと考えていた葉月は……。
「え、なんでそんな不満そうなの? 縦穴は広いけど、通路とかは狭いところが多いから取り回しやすいPDWの方がいいかと思ったんだけど。弾薬もセカンダリと共通で安く仕入れられるし。アンティークにしては補修部品も多く揃ってるから。そもそも実弾銃がいいのよね?」
「実弾銃以外はまともに扱えないからな」
「うーん、じゃあどこが不満なの?」
「P90の弾頭はボディアーマーに対する貫通力と人体破壊力は一丁前だ。でもあくまでも拳銃弾の位置付けだからな。火薬量が少なくて破壊力的にはライフル弾に劣る」
「今回は対人任務でしょう? 破壊力必要ある?」
ある。と雛樹は断言した。
その断言の根拠としては、今回相対するであろう人間の情報。
薬物摂取により一時的にドミネーター因子を取り込み、怪物の力を行使した人間は光学式銃では全く歯が立たなかったという。
そもそも光学式銃というのは貫通力にばかり優れていて物体を打ち倒す能力に圧倒的に欠けている。
ドミネーター因子を取り込んだ兵士というのは精神、身体共に暴走状態に陥り、その結果結果敵を殺害し、因子の影響で己も死に至る。
戦闘データを見る限りによると、風穴を一つ二つ開けたところで敵兵士は一切怯みもしていなかった。
「撃って当てて、強烈にノックバックさせるような武器が要る。CQBが主になるならガバメントで十分カバーできる。プライマリは……、できるだけ取り回しやすい散弾銃がいいな。10ゲージを撃てる二連装ソードオフとか」
「そんな散弾銃まともに撃てるの? おとなしくセミオートかポンプアクションの散弾銃にしておきなさいよ。この……すとらいかー? とかいうのいいじゃない。安いし」
「カートリッジがごつい」
「……わかったわ。望みのものを探しておくから。ホルスターの位置は?」
「腰後ろか脚がいいな」
「はいはい」
実際、銃で怯まない相手かつ戦闘場所が狭くなると近接戦を強いられることになる。
できるだけ体の可動箇所を阻害せず、体術と織り交ぜて使用できるような扱いを想定していた。
「あはぁ、しどぉは物知りねぇ」
「使ったことある兵装に関しては大抵覚えてるもんだ。自分の命を預けるものだからな」
「ふぅん……。そぉ」
そう言いながら、ガーネットは雛樹の肩に顎を乗せ、すりすりと頭を擦り付けてきた。
雛樹はそれをまるで猫のようだなどと思い、しかしガーネットはその時……。
兵器である自分を使うとき、彼は命を預けてくれるのだろうか。
そしてその時の気分はどんなものになるのだろうか。
そんなことを考えていた。
ーーー………………。
ややきな臭い任務当日。
天気には恵まれず、空は灰色に染まっている。
ガーネットは家で留守番をさせ、乗り込んだのはGNC社製の輸送車両。
採掘シャフトまで送っていくと、RB軍曹から連絡をもらっていたのだ。
センチュリオンテクノロジーの二人はまだ別の移動手段で向かっているという。
「よォ、シドー。随分思いつめた顔してんな。どうした?」
「ん、ああ……車酔い。どうも揺れの強い乗り物は苦手だ」
「ッハ、嘘こけ。まあ詮索はしねェが。その渋い散弾握る手が鈍らねェくらいには頼むぜ」