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34話ー守るべきものー

「フゥー……ッ、腹一杯だ。なァ、悪かねェだろ。ここでの生活はよ」


 宿泊棟の最上階、バルコニーで海上都市の風景を眺めながら紫煙を吐いたRBは随分と愉快げだった。

 それもそうだろう。あれだけ不安定だったステイシスがここまで落ち着けば自分が出張る必要もなくなるのだから。


「どうだろうな。どこにいたって銃と刃物に命を預けて仕事するのは変わらないから」


「ッハ。違いねェ」


「……あんたもその剣、随分使い込んでるみたいで」


「こいつか。……持ってみな」


 RB軍曹が主兵装としている巨大なつるぎ

 その剣の柄を握れと言わんばかりに差し出してきた。

 雛樹は多少訝しげにしながらも柄を握って持ち上げてみた。


 重い。それもかなり。

 当然と言えば当然ではある。身の丈ほどもある金属の塊なのだから。


 しかし……重いと感じるだけで持ち上げてしまったことがRBにとっては驚くべきことだった。


「オイオイ……持てるもんなら持ってみなって皮肉も分からねェのか」


「期待に添えず悪いけど持てちゃうんだな、これが」


「こりゃあタイプγを蹴り転がしたっつう噂ももっともだな」


 もともと、こんな金属塊を生身の人間がまともに持てるわけがないのだ。振り回すなどもってのほかであり、RBでしか扱えない。

 雛樹はRBの剣を返し、自分の右腕を眺めながら言う。


「俺はグレアノイドに対して完全に耐性を持ってるわけじゃないらしくてさ……例の力を使うたびに内部から徐々に体組織がドミネーターと同じようなものに置き換わってきてるんだと」


「ああ、あの馬鹿げたグレアノイド操る力だろ。……となると無制限に使えるわけじゃあねェわけだ」


「変質を無視すれば無制限に使えるさ。……それより軍曹、そういうあんたはよくこの剣振り回せてるな」


 見栄を張ってはいるが、正直雛樹にとってもこの剣は重すぎる。

 これをまともに振り回し、かつドミネーターの制圧に使用するというのはやはり尋常ではない。


「そりゃァお前……生身であの怪物共とやり合ってんだ。まともな体じゃねェことは分かるだろ」


 RBのように近接戦主体で戦闘を行う者がドミネーターを相手にすると、多数のリスクが発生する。

 キルゾーンに踏み込むため物理的な負傷はもちろんの事ながら、一番の懸念は人体に対するグレアノイド汚染だろう。


 ドミネーター自身の体躯、またはドミネーターが展開するグレアノイド粒子による汚染は生身での近接戦を強いる以上避けられないものだ。

 

「特にこいつをぶん回す腕はかなり機械化されててな。そうでなくても体のあちこちがグレアノイド侵食で切った貼ったのツギハギだらけだぜ」


 それでも出来る限り生身を保ち、戦線に立つことを望む彼は方舟の技術に傾倒することはない。

 そんな惨状の身体を引きずっていても、彼は軽快に笑う。

 

「あんたはそんな体になってまで、なんのためにその剣を振るうんだ……?」


「……あ? おかしなこと聞くもんだ。守るべきもんがあるからじゃねェか。まあ、俺の場合は大それたもんじゃねェが」


「この都市?」


「それじゃ大それてるじゃねェか。女だよ、腐れ縁のな。ずいぶんな大食らいで金に困ってんだ」


 最後の言葉は冗談だろうが、RBにも身を削って守りたいものがあるという。

 自分はどうだろうかと考えてみれば……どうだ。

 おそらく、自分にはそういった対象はいないだろう。

 なにせ、己が生きることに今まで必死だったのだから。







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