28話ーわからない感情ー
「なぁに、ひまなのぉ?」
「ひっ、暇じゃありませんよっ」
少々痛いところを突かれてしまい、声が裏返ってしまった。
対するガーネットはそんなことには興味なさげに、水路の水を小さく蹴飛ばした。
「この前の騒ぎで処分食らったんでしょぉ。しどぉが心配してたぁ」
「……そうですか、ヒナキが……。ひどい怪我をしているようでしたが何かあったのですか?」
「んぇ。あー……ちょっと任務でしくじったみたいよぉ。なっさけないからあんまり聞かないであげたほうがいいかもぉ」
「任務での名誉の負傷です。情けないとはなんですか」
ガーネットとしては言葉を選んだつもりではあったのだが、静流からそう返されてしまった。
まあ、どことなく冗談を言っているような調子だったため何も言い返さないでおいたが。
静流は今までの経験からガーネットに好かれていないことはわかっていたためにおそるおそる近づき、少しばかり距離をとって座り込む。
「……その髪、ヒナキに結ってもらったのですか?」
「これぇ? そお。あたしはいいって言ったんだけどぉ」
などと、すこしばかり頰を赤らめて結ってもらった後ろ髪を右手でふわりとなびかせた。
今朝、テレビモニターに向かっていたガーネットが熱心に見ていたのが今トレンドの女性の髪型特集であり、その様子を見ていた雛樹が気を利かせて結ってやったという。
あたしには似合わないからと抵抗したのだが、やはり少し興味があって髪をいじらせることを許してしまったのだ。
「髪の毛いじられるのもいいわよねぇ。撫でられるのと一緒かそれ以上かもぉ」
「へ……へぇ。よかったですね。そんなにしょっちゅう撫でられたりしてるんですか?」
「あたしが撫でて欲しくなったら撫でてもらってるぅ」
「……へー」
今まで自分に対しとんでもなく棘のあったガーネットが、こうして普通に話してくれていることに違和感を感じずにはいられなかったが……今この場で下手をすれば自分が刺々しくなりそうな気分であった。
ミシリと音を立てつつある、今にも壊れそうな自分の中の何かを必死に抑えつけ……。
「……仲良しなんですね、ヒナキと」
「仲良しぃ。しどぉはいい子よぉ。ご飯作ってくれるしぃ、甘えさせてくれるしぃ、頭撫でてくれるしぃ……」
まあそこまでは良しとしよう。同じ屋根の下で暮らしていればそういうこともあったりするだろう。
……と、静流はぐぐぐっと拳を握りしめながら続きを聞く。
「最近は一緒にお出かけするしぃ、一緒に寝てくれるしぃ。あ、しどぉって寝てる時意外と抱き癖あるのよぉ。嬉しいけど苦しいのよねぇ」
「……ぅあ……っ……、……!!」
さすがに限界だった。
目の前がぐらりと揺れ、頭の中が真っ赤に染められてしまう。