23話ー落ち込むエースパイロットー
一応処分期間中であるがゆえ、あまり目立つように動くなと釘を刺されたあと、静流は書斎を出ることとなった。
扉を出てすぐ、静流は大きく息を吸い、ゆっくりと吐いた。
アルビナも静流も憔悴しているようで、あからさまに本調子ではない。
そこには今回の件についての対応の忙しさからくるものもあったのだろうが、それよりも大きな理由があった。
アルビナ、静流の故郷ロシアで暮らしていた祖母が亡くなったと連絡が入っていたのだ。
タイミングが悪く、死に目に会えなかったのがアルビナにもこたえたらしい。
「ふぅ……」
「なんやぁ結月ちゃん、元気ないなぁ」
「……!」
どこから現れたのか、センチュリオンテクノロジーのウィンバックアブソリューターパイロットの一人、アインス=ノックノックが話しかけてきた……と同時に静流の胸を横から無遠慮に突いたのだ。
分厚い制服の生地に阻まれながらもなお突き出して主張するそのふくよかな胸が横から突かれて形を変え……。
「……早くその指を引かないと潰れますが」
「ぎゃあああ! 潰れとる! もう潰れとるから!!」
めしりという音が聞こえそうなほど見事に決まった股間への膝蹴り。
胸を無遠慮に突かれたにもかかわらず一切表情を変えず冷静に膝蹴りをかますあたり、アインスのこの粗相は日常茶飯事のことなのだろう。
「ほんま容赦ないなぁ結月ちゃんは……!!」
「気安く人の胸に触れるあなたが悪いんですよ、ノックノック」
「そうだよー、結月ちゃんのおっぱいは私くらいの仲じゃなきゃ揉めないんだから!」
と、背後からやってきていた東雲姫乃がそれはもう見事なまでに腕を回してきて静流の胸を持ち上げ揉んだ。
「同性同士でもそれはどうかと思うんやけども……そこんとこどうなん、結月ちゃん」
「まあ……姫乃ですし」
「ああー、相変わらず最高の揉み心地だよぅ。……元気でた?」
「あなた方の能天気な顔を見てれば自然と安心しました」
静流はくすりと笑い、その様子にアインスと姫乃は安堵する。いつも仕事中は張り詰め、息を抜くことをしない静流のことを随分と心配していたのだ。
今回の件でそれも限界にきているだろうとこうして励ましにやってきたのだが正解だったようだ。
「妹さんも一緒にいるなんて、珍しいですね」
「ほんまにうちの愚兄がいつもいつも申し訳ないです……。あとで灸すえとくんで勘弁したってください」
「いえ、毎度のことですからいちいち謝らなくてもいいですよ」
アインスノックノックの妹、エリス=ノックノックは兄と同じ赤毛の愛らしい女性である。
アインスノックノックのウィンバックアブソリューター搭乗時のオペレーターであり、階級は東雲姫乃と同じくする。
「ほんまええ加減にしいや、兄貴。一回まじでキンタマ潰された方がええんちゃうのん」
「すまんてー。でも結月ちゃんの爆乳見たら突きたなるのも致し方なしやろ。お前のぺったんと違って」
「!! ウチが気にしとることをぉぉぉお!!」
「ちょ、ちょっとエリス……ッ!」
静流が拳を振り上げたエリスを羽交い締めにして止めたところ、エリスは何かに心底絶望したような表情を浮かべてがっくりと肩を落とし、拳を下げてしまった。
「……なにをどうすればそんなたゆんたゆんに……」
「え、エリス?」
「ふへ、ああ気にせんで。こいつが勝手に落ちこんどるだけやから」
後ろから羽交い締めにされたことで静流の胸が背中に押し付けられ、その暴力的なまでの差を思い知らされたのだろう。
少しばかり落ち込みから回復した静流の代わりにエリスが落ち込んでしまっていた。