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17話ーいらない子?ー

 腹に刺さったグレアノイドの刃が抜かれ、ドミネーターと化した己自身に蹴り飛ばされた。

 血痕を残しながら地面を転がり、驚愕し混乱した己の精神的ダメージからも立ち上がることができない。


 ぐらつく視界の先には突き刺さったムラクモを軽々と抜き去り、聞くに堪えないほどの恐ろしい咆哮を上げる己の姿がある。



《結月少尉、優先目標はドミネーターよ。ガスマスクは地上部隊に任せて、追って!!》


「くっ……。了解です……」


 その場から垂直に跳び、空へ向かったドミネーターを追うためにブルーグラディウスはスラスターを噴かし、追跡を開始した。


 その場に残された雛樹は企業連の兵士が接近してきていることに気づき、逃げるためになんとか立ち上がれはしたが、ふらつき前に進むこともままならないこの状態ではすぐに囲まれてしまうだろう。


 だが、そんな中で聞こえてきたのは車のエンジン音。

 凄まじい速さでこちらにまっすぐ向かってきて、後方タイヤを横滑りさせつつ真正面に止まり、扉が開いたかと思うと車内に引きずり込まれてしまった。


「確保した、出せ!」


「了解」


 車のドアが強く閉まる音を最後に、雛樹は意識を手放すこととなったのだが……。


「死んだの?」


「いや、気を失っただけだよ。しかし、随分と深い傷だ。放っておくとそうなるだろうね」


「面倒くさいし放っておく?」


「そのつもりなら回収しに来たりしないよ。ステイシス=アルマの彼への依存度が想定以上に高い。今、彼に死なれたら困るんだよ。本土側はね」


 まさか化け物になった彼にまで攻撃拒否の意思を示すとは思わなかったと本土軍所属の若い男は言う。


「こちらも目標を達した上、“予定外”の拾い物ができたんだ。しっかり送り届けてあげようじゃないか」


 予定外の拾い物。それはこの車の後部に、大きな袋に入れられ鎖で縛られていた。

 それが何なのかは外見からは知る由も無い。


 

……——。


 

 熱にうなされ、夢を見た。

 かつてCTF201として部隊にいた頃の夢を。

 あの異形の怪物に蹂躙され、壊滅したあの日の悪夢を何度も何度も繰り返し見た。


 あの……あの怪物に己の姿を映しながら。


……——。



「……ッ」


 繰り返し見た悪夢の最後にようやく目が覚め汗だくで、息も絶え絶えに上半身を起こす。

 激しい痛みが腹部に走り、雑に巻かれた包帯に血がにじむ。


 ついさっきまであの怪物と対峙していたかのように思えるほど、昨夜の記憶が新しい。

 あたりを見回すと、ここはいつもの家の中だった。

 静かで、自分の荒い息がうるさく聞こえてしまうくらいであり、ささくれ立った精神が急激に落ち着いていくのを感じていた。


「……ガーネット……?」


 ガーネットがいない。

 彼女のベッドにも、この寝室にも見当たらない。

 傷がまだ痛むが、ベッドから出ておぼつかない足取りでリビングに向かう。


「……ガーネット。ちゃんと戻ってきてたんだな……」


「……」


「ガーネット……?」


 ソファーの上でうずくまり、顔も伏せてしまっている彼女からの返答がない。

 明らかに憔悴しきっているようだが……。


 ガーネットは寝ているのだろうかと肩を叩こうとすると、ようやく返答があった。


「……しどぉ。アルマ、もういらない……?」


「……?」


「しどぉがそんな怪我してるのに……何もできなくて……。アルマは兵器なのに……壊すことしかできないのにそれすら出来なくて……」


 随分と落ち込んでいるようだ。

 そういえば、あの時の自分の配慮も足りていなかったのだろう。

 戦えないのならいらない……などと言ったつもりは毛頭ない、が、ガーネットにとってそう捉えられたのかもしれなかった。


 雛樹はソファーでうずくまるガーネットの隣に座り、頭を撫でてやった。

 すると、伏せっていた頭が上がり……。


「しどぉ……」


「俺がいつ、お前を兵器として扱ってるなんて言ったんだ。まったく……」


「だってぇ……」


「あれは……あのドミネーターがいつかの俺だと、気付いてたんだろ」


「……うん」


 頭を撫でられた後、ガーネットはこてんと体を横倒しにし、頭を雛樹の膝の上に乗せた。


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