表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
161/307

どうしようもない感情


「どうした? 何かしたのか? ガーネット」


「なあにもしてないわよぅ」


 様子を見ていた雛樹が、グラスの割れる音に気付きバルコニーへ出てきた。

 てっきり機嫌を損ねたガーネットが何かしたものだと思ったのだが……。


 ガーネット自身が一番困惑しているようで、本当に何もしていないらしかった。


「も……申し訳ありません。な、なななんでもないんです、なんでも……」


「ああ、拾うな拾うな。主賓の手が切れる何てことがあったら大変だ」


 しゃがみこんで、割れたグラスの破片を拾おうとする静流の手首を掴んだ時、雛樹ははっと驚いた。

 静流の手が少し震えていたのだ。アルコールのせいかとも思ったのだが、そうでもなさそうだ。


「ヒナキの手が切れてしまいます……」


「俺は手の皮厚いから大丈夫」


 強引にグラスの破片を取ろうとした静流を止めながら拾ったため、余計な力が入ったのか破片が指に食い込み切れてしまった。

 しかし、雛樹は全く表情を変えずなんの反応もしなかったため、静流に気付かれることはなく。


「……んもぉ」


 それを見かねたガーネットが髪を物質化光に変え、幾つもの赤く光る糸でガラスの破片の全てを捕らえ、物質化光で包み粒子レベルまですり潰してから夜風に流した。


 月の光を反射し、夜景に消えゆくその粒子を見送った後……。


「ヒナキ……ガーネットと共に寝ていると聞いたのですが」


「えっ、なにいきなり」


 雛樹は切った手を後ろに回し、目を丸くしたのだが……。

 ガーネットに視線を移すと……。


「ほんとのことぉ」


「ほんとのことだが、お前が勝手に潜り込んでくるんだろ……」


 まあ、大体の事情は察することができた。

 ガーネットが何の気なしに言った言葉に静流がひどく落ち込んでいるのだろう。

 静流はずいぶんと自分に懐いている。それは雛樹自身理解しているつもりだ。


「ん……ちょっと散歩してくるぅ」


 ガーネットが突然そう言って、結月邸の中庭に降りてしまった。あまり雛樹から離れたがらない彼女がだ。

 珍しいこともあるもんだと思うと同時に、ガーネットなりに気を遣ったんだろうとも考えた。

 ただ面倒くさくなったか、中庭に興味を持ったということもあり得るが。


「私だって、昔のように雛樹と一緒に寝たいです。お風呂だって一緒に入りたいです……。いつだって貴方の後ろについて、仕事ぶりを見ていたかったんです……」


「20歳にもなって言う言葉じゃないな」


「わかってます……。でも、でも私はずっと貴方の背中を追いかけてきました。だから、本当に一緒にお仕事したかったんです。でも……ステイシスと共にいることになったと聞いて……」


 自分でもよく分からない、いやな気持ちになったと言う。

 その感情の名前は未だ見つからず。


「挙句、同じベッドで寝ているだなんて……聞いて……」


「た、ターシャ……? 目が怖いぞ」


 完全に目が据わってしまっている静流に、雛樹は少したじろいでしまった。 彼女から放たれるどろどろとしたオーラが見えるかのようだ。


「心に穴が空いたかのようなんです……。どうしてくれるんですか」


「どうしろと言われてもだな……」


 どうにも感情的になっている静流を見て、ああ結構酔ってしまってるなと雛樹は思う。

 まあしかし、こういう静流は珍しい。日頃抱えているストレスのこともあるのだろう。

 今くらいは好きにさせてやろうと腰を据えて話し相手になってやる覚悟を決めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ