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ー結婚相手ー

「坊や、お前もう結婚相手は見つけたか?」


「はあ、けっこん。考えたこともなかったな……」


「そろそろ相手を見つけてもいい歳だろう?」


「今も昔も……自分が生きることに精一杯でそんなことを考えてる暇なんてありませんよ」


「……ほう」


 アルビナはその返答に、ある程度察しはついていたのか別段これ以上とやかく言うことはなかったのだが……。


「なら手頃な女を用意してやろう」


「用意って……」


「静流はどうだ?」


「……なに言ってるんですか。今の俺とターシャが釣り合うわけないでしょうに。あいつには、もっとふさわしい奴がいますよ」


 それは、前にここで静流と、静流の職場の人間に混じり食事をした時のことだ。

 彼女は上位階級の男たちに言い寄られていた。

 自分なんかよりはるかに社会的地位があり、経済力がある。

 今や軍部のエリート階級にいる静流にはお似合いの男たちだったことだろう。


「静流はそのふさわしいであろう者達に女の顔を見せたことはない。坊や、お前には別だが」


「俺には?」


「あれも自覚はしておらんだろうが、お前には随分と甘えているようだ」


「……」


 その甘えは、雛樹にとっては昔通りといえば昔通りなのだが。

 むしろ、完璧な仕事人間として振舞う静流を見たことがなかったため、戸惑ったくらいなのだ。


「まあ同じことを言えば、あれも坊やと同じ反応を返すだろうがな」


 口癖のように言っている、雛樹のようになりたいという言葉。

 それは家族であるアルビナや……そして父、恭弥が一番よく聞いている。


「ほんとうに、憧れる人間を間違えてるとしか思えないけどね」


「……」


 割って入ってきた恭弥が、そんなことを言いながらアルビナとワイングラスを優しくぶつけあった。


 雛樹も、まあ言われたことには概ね同意である、が……その次に言われた言葉に対し、ピタリと動きを止めることとなる。


「死人に憧れるなんて、正気の沙汰じゃない」


「……」


 アルビナはせっかくの席でなにを言いだすんだ……と呆れてはいたが、あまり強く突っ込むことはしなかった。

 それはアルビナ自身もわかっていたことだからだ。


「君は人間らしくない。おそらく、幼い頃から死地に身を投じ続けてきたせいだろうけれど。今日聞いた、ドミネーター侵入騒ぎの時でもそうだ。君は、死ぬかもしれない状況においても、対して恐怖心もなくそこに立ててしまうだろう」


「それは……」


 死地に対して恐怖心をさほど抱かない、ドミネーター相手でも一歩も引かず戦闘行為に及ぶ。

 まるで恐怖を、死を忘れたかのように。

 

「まあ、はっきり言ってしまえば人間味に欠けるんだよ。そんな君に追いつくために、静流はどれだけ己の心を犠牲にしていたか……わかるかい?」


「そんなことしったこっちゃないわよぉ」


 恭弥からの棘のある言葉を受けていた雛樹だったが、その一言で救われたような気がした。


「しどぉは生きてるわよぅ。少なくとも、私が触れても大丈夫だしぃ」


「いやまあ、そうなんだけれどね。そういうことではなく……」


「これ以上しどぉのこと悪く言うつもりなら……あたしいい子じゃなくなるからぁ……」


 随分とひどく荒んだ目を向けられ、恭弥は少しばかり困惑してしまった。


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