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ーはぐれターシャー


 割れた鏡の欠片で出来上がった髪型を見せてやると、随分と嬉しそうにしていた。

 髪を結うのが下手くそだった初めの頃なんかは、気に入らなければ無言で顔を叩かれていたものだ。


 ふと耳をすますと、大きな爆発音が聞こえて来る。

 今回、仲間たちは比較的近くで任務に当たっているようだ。

 

 仲間が任務を終えて帰ってくるまで、雛樹はターシャにひらがなの読み書きを教えていた。

 雛樹自身、訓練の一環として最低限の勉学をしてきたため読み書き程度なら教えることができるのだ。


 だが、集中力がいまいち続かないターシャはすぐに雛樹の膝に小さなお尻を乗せて収まって体を預け、寝息を立ててしまう。

 随分懐かれたものだが……こんなところをこの子の父親に見られたらまたやかましく言われるだろう。


 結月恭弥は今、負傷して帰ってくるであろう部隊の兵士たちの治療に備え、足りなくなっていた薬品を軍部へ取りに行っているところだ。

 そのため、今ベースキャンプには雛樹とターシャのみとなっている。


 そう、雛樹はベースキャンプの警備としての役割も担っていたのだ。


 実際のところ、雛樹一人でベースキャンプの警備は事足りていた。

 CTF201のベースキャンプを狙う命知らずな盗賊は皆無に等しいからだ。

 

「よく寝てるな。よし、今のうちに……」


 雛樹は寝てしまったターシャを薄い毛布の上に寝かせて巻いてやった。

 そして、自分はベースキャンプの外に出て射撃訓練を始めた。

 音で起きてしまわないよう消音器をつけて数十メートル離れた場所にある的を相手に弾薬を消費していく。


 さらに、ロケット弾頭を使用した砲撃訓練を始めたところで異変に気づく。

 

「あれ、なんか揺れてる?」


 足元から伝わる継続的な振動から、地震かと警戒した。しかし、次第にしたから突き上げるような揺れに変わった時、ベースキャンプへと走り出した。


 まずい、これは……隆起の前兆かもしれない。


 気づいた頃にはもう遅かった。

 戻った頃には、ベースキャンプが半分消えていた。

 

 時折本土を襲うグレアノイド層の隆起現象。それは平坦だった土地に巨大な崖を出現させ、土地と土地を分断させてしまう。

 

 それ自体は珍しいことじゃない。土地がせり上がって崖ができるのはいくらか見てきた。

 もし、ベースキャンプがせり上がった土地の上にあったとするなら、大きく土地が割れない以上怪我はないはずだ。

 

 一番の問題は、グレアノイド層が地表に出てきたという事。

 間違いなく、この付近にドミネーターが出現する。

 

 取り残されたターシャを今すぐに助けなければならない。

 しかし焦る雛樹をよそに、そこからが幼いターシャのちょっとした冒険の始まりだったのだ。


「オニーチャ……?」


 凄まじい揺れとともに起きてしばらくテントの端で震えていたターシャが不安げな声を出した。

 勉強中に寝てしまったことを咎められることもなく、少しだけ安心してしまっていたが、テントの外を出て放心し、その後泣いてしまった。


 とんでもなく高いところにいて怖いし、雛樹がおらず不安で仕方なくなってしまったのだ。

 鼠返しのようになっている崖から降りれるわけもなく、このまま助けが来るのを待つしかなくなった。


 だが、それを状況が許さなかった。



「……!!」


 泣く子も黙るとはこのことだ。

 奇怪な音を上げながら、ドミネーターが出現したのだ。

 とにかくここから逃げなければ。

 幼いながらにそう判断したターシャは毛布を頭からかぶりながらそろそろとベースキャンプを出て行った。

 

 父や母の名を小さな声で呼びながら、ぐすぐすと鼻を鳴らし隆起でできた急な坂を下っていく。


「——……!!」


 もう勉強中に寝たりしないから助けてお兄ちゃん。そんなことを腹の底から振り絞るように言いながらそろそろと歩いて行くと、石につまづき転んでしまった。


 そこからはもんどり打って坂道を転げ落ちることとなる。

 幸いだったのは、隠れるために毛布を体に巻いていたことと、大きな岩に体を打ち付けなかったことだ。


 それでも身体中に擦り傷ができたが、頭を打つことはなかったし、それ以外は顔中鼻水と涙まみれになっただけだ。


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