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ーステイシスにとっての普通ー


「こうしてると本当に普通なんだな、お前は」


 しばらく黙っていたのだが、飛んでいる虫に興味を惹かれてふらふらと近づいていくガーネットの背に向かってそんなことを言った。

 するとだ。そのまま綺麗な羽を持つ蝶に向かっていく様子だったガーネットが、ピタリと歩みを止めてこちらに振り返った。


 それはどこか呆れた風であり、仕方ないかといった風でもあり、そして解りづらいが嬉しそうな表情であった。


 しかし、じとりとした目で雛樹をしばらく睨めつけると……。



「普通がなんなのか知らないけどぉ。しどぉはあたしのことデータで見て知ってるでしょお?」

「データ……ああ、あれな」


 ステイシスを預かる身になるときに送られてきた、ステイシスのあらゆる情報が載っていたデータのことだろう。

 確かに重要な部分だけは目を通したが……。


「実はほとんど見てなくてさ。こうして過ごしているだけで得られる情報が一番だろ。実際、お前は前評判が当てにならないくらいいい奴だよ」

「はあーっ? なに良いこと言ってんのぉ? そんなこと言われても嬉しくないからぁ!」

「頭撫でられるだけで嬉しがる奴がよく言う」

「嬉しくないからぁっ! なによぅその顔ぉ。むっかつくぅ!! コロス!」

「危なっ」


 弛んだ表情を隠すかのようにむくれながら、ガーネットは渾身のビンタを雛樹に叩きつけようとした。

 しかしまあ、予測していたことだったためにそれを軽くかわし……。


「あんまり暴れてくれるなよ。目立つ目立つ」

「ぐぎぎぎぎ」


 雛樹のむっかつくニヤニヤ顏を前にして、照れるやら恥ずかしいやら悔しいやらでぎりぎりと歯を鳴らすガーネットの頭にぽんと手を置いて再び歩きだす。


 そんな雛樹の背中を見て、ガーネットの表情からふと力が抜けた。


 雛樹と会う前の自分と、一緒にいるときの自分を比べてしまったのだ。

 境遇や、自身の精神状態、そして立ち振る舞いを。


………——。


【高部局長、ステイシスアルマの制御値が危険域に!!】

【またか……。いつにも増して不安定だな。いい、私がいこう。鎮静剤を限界まで投与し、RBに連絡を入れておいてくれ】

【わかりました】


 雛樹と出会うほんの数カ月前、ステイシス・アルマは灰色の日常にいた。

 人体とドミネーター因子が融合した唯一無二の成功事例として、調査のために毎日のように行われる人体実験、投薬実験。


 この苦しみの中が自分の居場所であり、当たり前の日常。

 それ以外のことを知らず、日を追うごとにそれ以下のことしか知ることができないでいた彼女は、時折精神を壊し、暴れ出すことがあった。


【第三隔離室で止めろ! これ以上進ませるな!】


 制御室、監視カメラ越しに見える内部の様子は見るも無惨な状態だった。

 これでもステイシスを隔離するために開発された部屋なのだが、その役割をやっと三つ目のところで果たしていたところだ。

 

 


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