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第4節6部ー強制進軍ー

 集落に入って、遅れてきた来栖川准尉、そして荒木一等と集落にあるであろう、固定兵器の管理施設を探したのだが……。それは全く見当たらなかった。その代わり、幾つかの家屋の中を確認してみて発見したものがある。


 扉を開けた瞬間に、黒くドロドロとしたものが外へ這い出てきた。その中に混じって見える人としての内臓器官の幾つか。ひどい熱気と蒸気、その先には赤く光る目がいくつも肥大した体に張り付いている。


 そう、侵食体だ。どの家屋にももれなく末期状態の侵食体が住んでいた。ただそこにいるだけで周囲にグレアノイド汚染を引き起こす害悪と化した人間だ。


 それを見て吐き気を催すのは必然だろう。来栖川准尉も荒木一等もひどく憔悴した様子だった。

「夜刀神、管制室が集落に見当たらない。どこにあるかわかるか?」

《その集落にないのなら……おそらく、そこから北に約300メートルに進んだところにある、山の中よ》

「山の中?」

《ええ。はじめは避難シェルターかと思っていたんだけど、はるか昔に破棄された軍事施設みたい。そこの火器管制システムを流用して、その島の防衛兵器が制御されているはずよ……ただ》

「ただ?」

《すごい数のグレアノイド反応が確認できるわ》


 グレアノイド反応……ということはドミネーター、もしくは施設がグレアノイド汚染を受けているか。どちらにしろまともな場所ではないだろう。


「まるで地獄の釜だな。この人数でそこに入るのは自殺行為か。夜刀神、おそらく撤退するしかない。都市側にもうその打診はしてあるんだろ?」

《ええ……もうすでに》

「なら全部隊撤退すべきだ。こんな島に関わってもろくなことがない。生存者もおそらくいな……」

《いるの》

「なに?」

《その施設内に複数の生命反応があるの。弱々しいけど、祠堂君の言う侵食体の特徴は見られないわ》

「……おいまさか」


 嫌な予感を感じた。雛樹が内容を言うまでもなく、葉月が答えた。簡潔に。

 “撤退は許されない”と。


《企業連上層部は生存者の可能性がある以上、救出活動を行う必要があると判断しているわ。それに、住人がこの島にいる以上、防衛設備の破壊も許可されなかったの。あくまでシステムをシャットダウンさせないと、二脚機甲部隊は動かせないままよ》

「クソ……馬鹿げた上層部だ。自分たちが針のむしろに座ってるってことをまるでわかっちゃいないみたいだな。こんな無茶な命令を下しておいて、参加企業からどんなバッシングを受けるか火を見るより明らかだろうに……」


 と、自分で言っておいて思い出す。この任務に参加している兵士たちは皆、都市にそれほど影響を与えない小さな会社ばかりだということを。

 RB軍曹が任務前に言っていた。キナ臭い、と。


「……捨て駒ってことか」

《……おそらく、そうね。さっき祠堂君が言っていた、この島が方舟の人体実験施設、もしくは廃棄場所だという話……あながち間違ってはいないはずよ。とんだ貧乏くじを引かされたわ……ごめんなさい》


 この島が、なんらかの理由でセンチュリオンノアの航路に入ってきた。そのため、企業連がこの惨状を隠蔽するために、救援物資輸送という形での慈善任務を行うというパフォーマンスを行ったのだ。

 有象無象の兵士を送り、その島はすでに手のつけられない惨状だったが、数少ない生存者を発見。それを助けさせることで任務は完了。


 帰還すれば、地獄と化した島で困っていた生存者を助けられたともてはやされたあげくこの任務は正当化される。参加した若葉マーク付き兵士たちからのブーイングは、いともたやすくなかったことにされるわけだ。


 周りから、うめき声がする。集落で侵食体化した哀れな人間たちが、助けが来たと這い出してきた。


「なんかいっぱいでてきたわよぉ? どうするぅ?」

「どうするたって……北の山の施設に行き、生存者を確認し次第救出するしかなくなった」


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