9.
「ついに、来ましたわね」
「ああ」
俺らの目の前には、とうとう迷宮の第7区域のボス、スケルトン・ケンタウロスが佇んでいた。
立派な馬の骸骨の上半身には、これまた立派な骨の騎士がそこにいる。
左右に三本ずつ、合計六本の阿修羅の手を供えた男。
歴戦の戦士の風格。
「三ヶ月前、この区域にスケルトン・ケンタウロスが現れた。以来、この区域を攻略した冒険者は、まだいない」
「そりゃもう、ギルドが私たちに討伐依頼をお願いするのも当然ですね!」
「討伐する」
「とりあえず、作戦通りに行きましょ」
「皆さん、配置について準備ですわ」
一方の「月の弓」の皆も臨戦態勢に入っている。
作戦は、簡単。
前衛をマリーとターニャが支え、アルテミスとリリエラが後衛。カバーを俺とレベッカが行なう。
命がけ。
今までの戦いも命がけだったというのに、今は殊更、命がけなのだという危機感がぴりぴりと背中に走っている。
これだから、戦いは。
「皆様、行きますわ」
アルテミスが戦火を切った。
「おりゃ!」
まずは氷魔石+蟻地獄の罠のスクロール。
スケルトン・ケンタウロスの足を封じ、動けないところを砂の落とし穴で落としこむ。
案の定、スケルトン・ケンタウロスはそのまま動けないまま、蟻地獄に太ももまで沈みこんだ。
このとき氷魔石の氷も一緒に砂の中に沈みこんだ。砂の中に氷の結晶が刺さりこむことで、ヤツが容易に脱出しにくいようにするのだ。
「くらえ!」
次に、俺は粘性油の火炎瓶を投げた。
スケルトン・ケンタウロスの鎖骨辺りに着弾したそれは、急にけたたましい炎を吹き上げると、奴の全身を舐めるように燃え上がった。
作戦その一は成功。
まずはヤツの体を炎で一気に焼く。
熱により、骸骨と装備をもろくすること、及び継続的なダメージを与えることが目的だ。
「今です!」
遠距離から、マリーとターニャが投石して、スケルトンにダメージを与えていく。
外装の鎧を傷つけ、あわよくば腕の骨などを破壊することが目的だ。
流石に敵はやるもので、楯や鎧を上手に活用して防御し、ダメージを最小限に抑えている。
しかし、敵の体の隙間を縫うように、アルテミスが鋼鉄の矢を差し込む。
関節に鉄の棒を差し込むのだ。
スケルトンにダメージを与えることが目的ではない、スケルトンの動きを封じるのが目的だ。
「えい!」
レベッカは、そのまま幾らかの爆薬をスケルトンに放り投げた。
爆風で敵の装備を剥ぎ取る。また、鋼鉄の矢で弱っている関節部分を引きちぎるように負荷を掛けるのだ。
結果、スケルトンの右腕が一本外れた。
だが、スケルトン・ケンタウロスもさるものだ。
咄嗟に千切れた腕を掴んだと思いきや、振り被ってターニャとマリーに投げつけた。
二人は咄嗟に防御する。
が、重たすぎた。
「あっ!」
「ぐっ」
二人の苦痛そうな声。
受け切れなかったか。
「馬鹿め、このクソ骸骨」
俺はそう言ってやる。
クソ骸骨は知らない。同じ物質は、同じ物質で破壊するのが一番いいということを。
ダイヤモンドを破壊するには、ダイヤモンドが都合がいいのだ。
「待ってたぜえ!」
マリーが吼える。
その骸骨の骨を、マリーは抱えた。抱えた腕から煙が出るほどに熱を持ったその骨を、マリーはそのまま抱え込んだ。
そして、振り回す。
それは暴力的な威力を伴って、スケルトン・ケンタウロスのわき腹をぶっ叩いた。
ひしゃげる音がした。
スケルトン・ケンタウロスの肋骨が折れたことが、音で分かった。
「―――!!!」
だが、それは同時に、スケルトン・ケンタウロスの闘争本能を呼び起こす一撃でもあった。
スケルトン・ケンタウロスの足が一本、砂を蹴って地上に刺さった。
そのままヤツは、砂の束縛を振り切って、地上に蹴り上った。
「第二ラウンド、開始だぜ」
俺は、氷魔石をヤツに投げつけた。