7.
「ところで先ほどの魔石、回収できるんですね」
「まあ、使いきるまではな。でもまあ今日でもう5回使ったからそろそろアウトっぽい」
あれから。無事スケルトンとの戦闘を終えた俺達は、そのまま今日だけでさらに7回魔物に遭遇した。
内4回は魔石を使用しないといけないぐらいの魔物の群れで、肝が冷えるような敵との会合であった。だがレベッカから言わせると「今日は魔物がさくさくと倒せてちょろかった」だそうだ。
流石は高レベル冒険者だというものだ。
「でも、もうそろそろ良い時間よね。一回休憩入れた方がいい感じだわ」
「ん、そうだなレベッカ、もうぼちぼち一旦休みたいな。……じゃあアルテミスさん、今日はこの辺で野営っすかね」
「そうですわね、ジョルジュ。……では皆、今日はここで野営の準備に移りたいと思いますわ。各自荷物を持って設営しなさい」
ただ、高レベル冒険者とは言え戦闘時間はかかるという物。
さくさく、とレベッカは言っていたが、やはり魔物との戦いは結構神経を使うもので、7回もの戦闘を行なった俺は体に堪えている。
これがもし大したことのない敵ならばともかく、やはり相当上位のレベルの相手となると磨耗も大きい。
レベッカの言うとおり、やはり一撃もらって持ち堪えられるか即死かはメンタル的に違うものだし、それは本人にとってみればなおさらだ。
ということなので、俺たちは野営をこの場で取る事になった。
ありがたいことだ。
晩御飯を食べながら。
「さて、改めて自己紹介になりますが、俺はジョルジュと言います。フリーランスのソロ冒険者をやっておりまして、結構幅広く請け負ってます。ギルドランクはBですが、Aランクの皆さんとこうやってご一緒出来るのもひとえにレベッカやターニャによくして頂いているからで、この貴重な機会と皆様の寛容な心に感謝しております。御迷惑をおかけするかと思いますが、何卒よろしくお願いします」
拍手がちらほらと聞こえる。レベッカとターニャだ。
レベッカに至ってはよく知っているだろう。俺がランクBの冒険者でありながらそれ以上のランクの依頼によく首を突っ込むこと、そしてそのためによくランク上の冒険者と臨時パーティを組むというコバンザメ作戦をすることを。
レベッカと仲良くなったのも実はこのコバンザメ作戦のおかげであったりする。
「皆様にはお見せしたとおり、俺の戦闘スタイルは罠使いです。色んな道具を使って相手を無力化し、全体のパーティの戦闘をサポートするのが得意です。スライムを使役したりもしますが、それも同じく罠として活用するのが専らなので、罠使いスタイルなんだなと考えてくだされば問題ないでしょう。……まあ、些か俺の場合ばら撒く罠が多い気がしますが」
俺の言葉にマリーさん、アルテミスも頷く。
罠使いスタイル。レベッカもどちらかと言うとそのスタイルではあるが、俺ほどふんだんに罠をばら撒くタイプではないだろう。
俺のタイプの戦い方はアイテムの数、ひいてはアイテム購入資金がないともたない。
俺にもし経験石を魔物から取り出せる、という能力がなければ、到底このばら撒きスタイルの戦いを続けることは出来ないだろう。
「ところで、もしよろしければ皆さんの自己紹介も窺って良いですか? 俺もまだ「月の弓」のメンバーを詳しく知ってるわけではないので」
「あら、そうでしたわね。じゃあリーダーである私から紹介しましょうか」
「お願いします、アルテミスさん」
さて、ここからは皆の自己紹介を聞く番になる。
俺みたいな罠使いとしては、パーティの特性を知っておかないといざと言うときに効果的な罠を仕掛けられないだろう。ここから先の情報はそういう意味でも聞き逃がせない。
まずはアルテミスの番だ。
「私はアルテミスと申します。とある貴族の娘で、そこで弓矢の技術と冒険者としての心得をお抱えの先生から習いました。冒険者には昔から憧れていまして、それに加えて私の弓の才能がお父様に認められて、そして晴れてこのように冒険者パーティーのリーダーになっていますわ」
「貴族なのに、冒険者ですか」
「ええ、ジョルジュ。……私のこの弓は我が家に代々伝わる宝具でして、使い手を選ぶ弓なのです。この弓に選ばれた私は、戦が始まれば実家に帰って弓引いて戦場を指揮することを条件に、今のうちは自由にさせてもらっているのですわ」
「へえ」
「もちろんそれなら冒険者なんかしないで実家で大人しく弓の修行をしてたほうがいいのですわよ? でも、冒険者になりたいのは私の意志ですわ。それに、弓も育ちますしね」
気になる情報は貴族の娘という点と、弓が曰く付きの家宝であるという点か。
なるほど、貴族の道楽パーティというのは案外当てはまるかもしれない。緩い空気とか。ちょっと戦ってるレベルが高いことを無視すれば、道楽で冒険者やってますとも言えなくもなさそうだ。
それと、弓が育つという表現もちょっと引っかかるが、ここは聞いちゃいけない場所かもしれないので黙っておこう。
「アルテミスさんは確かに弓使いという感じですね、見た雰囲気からして」
「呼び捨てで。アルテミス、でよろしくてよ、ジョルジュ。」
「ああ、じゃあ今度からアルテミス、で呼びますわ」
「敬語じゃなくてもよろしくてよ」
「ん、OK」
あとは、アルテミスの見た目がスレンダーであるということ、金髪でふわっと縦ロールのある髪型であること、例えるなら前世の女子高生と雰囲気が近いということ、だろうか。
貴族だという小奇麗な気品さがちょっとだけオーラに出ているようだ。他の四人も綺麗だし可愛いけども、何というかアルテミスは上品であった。
絶対彼女、ギルド内で隠れファン多いだろうなあ。
―――
名前:アルテミス
種族:ハーフエルフ
職業:狩人 Lv:71
スキル
・肉体強化Lv2
・弓術Lv4++
+視野強化、技巧上昇
・魔術Lv2+
・狩猟の女神の加護
―――
それに、意外にも多才だ。
ハーフエルフであることや、魔術が使えることは敢えて伏せているのだろう。加護に至っては絶対に伏せないといけない情報だ。
こっちが下手に掘り返すのもいけない、ということで放置しておく。
基本の紹介は終わったので、次はリリエラに話を振ることにする。
「じゃあ、次はリリエラさん」
「了解」
リリエラの口調はいつも端的だ。
クールな見た目どおりの口調で、裏切らないとだけ言っておこうか。委員長、という表現が似合うだろう。
深い紫の髪が特徴的で、黒いローブがまた様になっている。
「リリエラ。魔法は理魔法基礎を殆ど修めている。得意魔法は範囲魔法。王都魔法学院を出て、アルテミスと知り合ってここに入った。稼ぎも多く、魔法の技術も修行できるこの「月の弓」の生活には感謝している」
「リリエラさんは色んな魔法を簡単に使っていると思いますが」
「敬語はいらない、私も苦手。……魔力には自信がある」
「なるほど、じゃあ敬語抜きで。でもリリエラさんは後衛アタッカーしながらバフ魔法で補助したり回復魔法したりと結構幅広いことやっててびっくりしてるんだけどさ」
「企業秘密」
「おっと、失礼」
まさか俺の口癖で返されるとは思わなかった。
しかしリリエラがしてやったりという顔でニマリと笑っているところをみると、感情に乏しいというわけではなさそうだ。
「でもまあ、このパーティがここまで来たのはリリエラの貢献が大きいですわ。彼女一人で魔法職の仕事を殆どこなせるのですもの」
「皆のおかげ」
「もちろん皆を誇りに思ってはいますわ、でもリリエラは貴重ですわ、天才ですもの」
「ありがとう」
アルテミスの言うとおり、俺もこのパーティがここまでのし上がったのにはリリエラの功績が大きいと見ている。
強大な範囲魔法を連発したり、味方に補助魔法や回復魔法をかけたりするのにはべらぼうな魔力、ひいてはMPが必要だと言うのに、彼女はそれを一人でカバーしている。シンプルに計算して、人の倍のMPがあると考えた方がいいだろう。
つまり、一人で倍のパフォーマンスを誇っているのが彼女だ。
―――
名前:リリエラ
種族:エルフ
職業:魔術師 Lv:64
スキル
・魔術Lv4++
・連続魔法Lv3
・魔力回復Lv4+
―――
それと、魔力回復、連続魔法の詳細は聞けなかった。
ちなみに俺は、魔力回復のレベルの高さこそが、彼女の魔力量の秘密だろうとにらんでいる。エルフ族であるというのもまあ、彼女の秘密だろうし。
リリエラの紹介はもっと聞きたいが、今しつこく聞くとスパイを疑われるので、それは追々で構わないだろう。
次はマリーさんにでも話を聞くことにする。
「じゃあ今度はマリーさんで」
「うむ」
マリーは赤髪の似合う女戦士だ。ヘルムと鎧、そして背の高い姿と凛々しい表情は、ちょっと女顔のお兄さん、という印象がする。
元の素材はいいので、ちょっとそばかすがあるのもチャームポイントになっている。
「マリーだ。見た目どおり、前衛で戦うのが得意だな。斧、槍、ハンマー、楯で大雑把に戦うのがスタイルだから、小手先の技量が試される対人戦スキルはからっきしだ。身体強化を駆使して前線を支えながら、主に楯を構えてじっくり戦うのがメインのお仕事だ」
「マリーさんは楯が一番得意なのかい?」
「よく分かったな、ご明察だ。楯は一番鍛えこんだ。……ちなみにだが、楯捌きと槍術こそ便利だから鍛えたが、他はシンプルに振り回していればいいというような武器しか使っていないのも、まあ私の技量の乏しさに由来するものだな」
彼女はからからと明朗に笑っている。
だが、技量がないと言うのは嘘だ。
―――
名前:マリー
種族:デミオーグレス
職業:戦士 Lv:64
スキル
・肉体強化Lv3+++
・楯術Lv4
・槍術Lv3
・気功術Lv1
―――
むしろ、彼女のステータスは技巧派のそれに近い構成になっている。
恐らくだが、肉体強化、楯術、気功術を併用してようやく前線を支えられるというわけではないだろう。彼女は万が一に備えて余力を残しているのだ。
それに、デミオーガーだというのならばその高い身長も納得だ。
「マリーさんはレベッカと知り合ってパーティに?」
「まあ、そうだな。どうせ行くあても余りなかったから、レベッカの親切に甘えてこのパーティに入っているわけだ」
あまり過去に触れないように気を付けつつ、しかし一応経緯を聞いておくポーズを見せる。
こうすることで、気を使っているように見えないだろうし、かといって相手を害することもないだろう。
俺のスキル「鑑定」がばれてしまわないためには、こういう小芝居も必要なのだ。
あまりマリーの番を長くすると変な質問をしてしまうかもしれないので、さっと次に移ることにする。
次はターニャが無難だろう。
「じゃあターニャ」
「いやいや、ターニャのことは知ってるでしょ」
「了解です!」
途中レベッカが口を挟んだが、ターニャは元気に返事をしてくれた。いい子だと思う。そのワーキャット特有の猫耳やしっぽ、しなやかな体つきはいずれをとっても彼女の魅力だ。
髪はグレー。結構全身に薄く毛が生えているので、比較的外見が人間に近い他のメンバーと比較すると、彼女だけちょっと浮いて見えるというのはある。
「えっと、私はターニャと言います。このメンバーの中では一番後輩にあたりますが、レベッカさんとジョルジュさんのすすめでこの「月の弓」に入ることになりました。元々剣闘奴隷だったのをレベッカさんとジョルジュさんが購入してくれて、それを返すためにここで精進して、今はもう奴隷から脱して普通にメンバーやってます!」
「懐かしいな、あのときの商人元気かなあ」
「気前良かったわよね」
「レベッカはお金のことばっかりだな」
「うるさいわね」
ふいと顔を背けるレベッカ。
そういえば確かレベッカと初めての共同依頼になったのもこの時だったと思う。確かギルドから商人の護衛を請け負って、途中で盗賊に遭遇したんだ。
レベッカと俺は盗賊からけしかけられたワイルドタイガーを抑え、その間に他の冒険者が盗賊を追い払ってくれたのだ。
その時の報酬で、ターニャを4割引で譲ってもらったというわけである。
「ちなみに私は剣術、格闘術、気功術が使えて、あと肉体強化もできます! 最近ちょっと気功術の技量が上がって楽に戦えるようになりました!」
「ターニャって結構技巧派だよな、肉体派だけど」
「ひどいっすよジョルジュさん、レディが肉体派って傷付きます」
ちなみに彼女は、本当に隠し事せずにそのままのことを答えてくれた。
なんというか、無防備だなあと心配になる反面、まあ別に教えても弱点になるようなことは教えてないのでいいかとも思う。
―――
名前:ターニャ
種族:ワーキャット
職業:武道家 Lv:61
スキル
・肉体強化Lv3++
・剣術Lv2
・格闘術Lv2
・気功術Lv2
―――
ちなみに彼女の戦闘のセンスは非常に高い。ワーキャット族の特徴なのかもしれないが、反射神経がいいのと、体をばねのようにして体幹を駆使した戦法をとれるため、見た目よりも非常に強力な一撃を振りぬけるのだ。
実際、この迷宮に入って数回ほど、縦一閃に見事な頭蓋割りを見せてくれた。剣の技量もそこそこ高い。
「最後はレベッカだな」
「まあ、いいけど」
個人的な感想だが、レベッカはツンデレ娘だと思っている。ちょっと勝気な口調とつんとした表情、そしてフードの中の黒いショートヘアが可愛らしい。
そして俺は、レベッカのことをかなり信用している。何故なら彼女とは結構付き合いが長いからだ。
「レベッカ。考古学とトレジャーハントのために迷宮に入り浸ってるローグやってます」
「ならずもの(Rogue)やってるなんて中々お前ファンキーな自己紹介だよな」
「ちげーし、研究者(Logue)だし。……実際迷宮歴は割りと長くて、マリーとペア組んで7年目、アルテミスと組んで「月の弓」結成が5年前、んでまあターニャ入ったのが3年前だから、実は一番この中で長いかも」
「お年はおいくつなんですかー?」
「お前ぶん殴るぞ」
とりあえずレベッカは一番頼りになる人間だ。というのも彼女の能力は非常に変わっていて、その特性からか彼女はいつも便利屋扱い出来るのだ。
―――
名前:レベッカ
種族:デミサキュバス
職業:ローグ Lv:64
スキル
・魅了Lv4+
・肉体強化Lv2+
・短剣術Lv3
・気功術Lv1
・暗殺術Lv3+
+気配隠蔽、気配察知
・トラップ解除Lv2
・地形把握Lv3
・情報収集Lv3
・韋駄天の神の加護
・強運+
―――
というのも、彼女は本当にならずものなのだ。
裏の世界の住民だった、というのが正しい。どうやって足を洗ったのかはともかく、今まで、魅了、暗殺術、情報収集を生かし、裏の世界でやっていたのだ。
彼女は非常に賢い。その見た目から、どう考えても彼女の本当の種族がデミサキュバスだとは想像できないだろう。油断した冒険者を上手く魅了しては情報収集を繰り返し、おかげで彼女のコネクションは裏の世界にまで渡っているのだ。
彼女は多才で、スキルは非常に豊富だ。俺はそれに目を付けて彼女と仲良くすることに成功し、そして今に至るわけだ。