6.
「いやあ、こんなに貰えるなんて、望外の利だな」
「妥当」
「そうかリリエラ?」
戦闘に勝利して、俺たちはスケルトンの体を解体し、アイテムボックスにしまいこんだ。
スケルトンの体からは骨素材、あとはスケルトンのドロップする武器が取れるばかりでなく、骨にたまに結晶が生まれて成長していることもある。
今回の骨素材は、浄化の炎によって焼かれて脆くなっている骨が殆どだ。ドロップ武器はそこそこいいものが多かったが、まあそんな物だろうというレベルだ。
それよりも、俺にとってはスケルトンの経験石とスケルトンの体の残り廃棄が美味しい収入だ。
まずは経験石だが、なんとあのスケルトンの群れの4割分も手に入れる事ができた。
彼女たちにこっそり隠れて抽出することができたのは、この4割程度であったものの、しかしこれが非常に美味しいのだ。
この経験石、普通の経験石じゃなくて平均レベル50ほどの魔物の経験石ということもあって、非常に良質な経験石である。
こんなの、俺の普段の稼ぎを思うと破格である、破格。やっぱりこいつらと一緒に迷宮に潜ってよかったわ。
そして残り廃棄はそのままアイテムボックスに放り込んで、スライムに消化吸収させている。
その残り廃棄ですらスライムにとって非常に良質な食事と成長素材であるというのだから、やはり迷宮は侮れない。
「いやいや、あの氷魔石のおかげだよ、ジョルジュ君」
「そうですわ、遠慮することはなくてよ」
「はあ、それじゃあありがたく頂きますが」
ちなみに「月の弓」の皆は、収入はパーティー共有財産と分配用に分割し、分割用をメンバーに均等に分けているようだ。
今回のスケルトン戦の収入でいえば、殆どパーティー共有財産に入るらしい。
いい考えだ、と俺は思う。こういうようにパーティー共有財産というものを作っておけば例えば誰かの防具を買い換えたい、とかの時にそこからお金を出すこともできるし、しかし傍目から見れば収入はフェアだし、パーティーを長続きさせるにはいい工夫だ。
「それにしてもジョルジュさん、あの氷魔石、とても強かったですね」
「ああターニャ、そりゃまあ強いと思うぞ。何せ特殊ルートで購入したものだからな」
「えー、それは秘密ですかー?」
「まあ、秘密ということにしておいてくれ」
言えるわけがない。経験石で購入した特別製、だなんて。
俺が「月の弓」のメンバーと迷宮に入る前日。俺は闇市の露店の一つ、通称「骨董屋」の前に佇んでいた。
俺の中で行うべきタスクは既に決まっていた。
「しかしここに訪れるのも久し振りだな」
一つ目、必要な道具を揃える事。
今回「月の弓」のメンバーのレベルを見るに、恐らくだが、対応しなくてはならない魔物のレベルは60程度を見込んだ方がいい。
つまりレベル60の魔物相手でも十分に効くような道具を用いないといけない。
そうなってくると対象が限られてくる。
第一に、広範囲の敵に有効な汎用トラップ。
鉄ワイヤーの投げ網などはそういうトラップの中でも理想的な物に近い。
広範囲で丈夫、さらに繰り返し使用可能であるという点が素晴らしい。使用方法も投げるだけ、と簡単である。
ただ、実用に耐えるワイヤーが非常に高価であり、しかも割とワイヤーの磨耗が速いのがネックであるが。
第二に、引っかかったら確定的に相手を不利な状況に落としこめる高威力トラップ。
落とし穴、が一番分かりやすいしイメージが付きやすいだろう。
引っかかったら最後、身動きがとれないし、落とし穴に工夫を加えたら一発で死なせることも可能だ。
そのような類の罠が購入出来ればいう事はない。
と言うわけで、落とし穴などを作り出す魔石は既に押さえてある。これもまた高価ではあるが。
第三に、これ一打で状況を変えられるという切り札トラップ。
例えば毒、が俺の持ちうる切り札である。
相手のモンスターが例えどれほど強力なレジストをもっていようが命をもっていけるだけの毒を俺は保有している。
それは強力だというだけでなく、例えば発泡性であったり強アルカリであったり、という化学的特性により、その毒が心臓まで達したときに確実にモンスターを仕留められるという代物だ。
いずれも、非常に高価なものである。
通常のルートで仕入れるのだとすれば、それこそ貴族御用達のお店で大金をはたいて買わねばなるまい。
俺は、それを特殊能力で購入している。
「やあ、ジョルジュ坊。最近儲かってると聞くが」
それが、経験石だ。
経験石は余り存在が認知されていないが、非常に高価な代物として裏ルートで流通されている。
それもそのはず、経験石を使用すればレベルを上げることが容易にできるのだ。レベルを上げることの恩恵は大きい。レベルが上がると基本的には体力が増加される。これは筋力の増加や敏捷性、持久力、などの総合的な観点からみた体力が増強されるものだと考えていい。更には魔力も増強される。体内保有マナ(所謂MP)だけでなく魔力親和性も増大するので、魔法使いやスキル使いであってもその恩恵は大きいのだ。
通常レベルを上げるには迷宮や汚染地域の中に入る魔物を倒して、彼らから魔素を奪わないといけない。
魔物や冒険者が一般の生き物よりも頑強でいられる最大の理由がこの魔素である。魔素の効果で身体が頑強になっており、魔素の効果で魔力やスキルの向上が出来ていると言っても過言ではない。
その魔素を、この経験石は保存しているのだ。
つまり、経験石さえあれば危険な真似をしなくても体力を増強できるのだ。
「どうも、骨董屋の裏商人さん。今回はリーダーオークの経験石も手に入ったよ」
「ほう」
ただし、魔物から経験石がドロップされることはごく稀である。そのまま魔素が流出して、大部分が迷宮や汚染区域に流れ込み、一部が冒険者に流れ込む、というのが普通だ。
魔素が塊で残るだなんて、そんなこと中々ないものなのだ。
しかし、俺はその経験石を抽出する能力を持っている。
魔物の死体さえ残っていれば、経験石を抽出することは訳ない作業なのだ。
「毎度毎度驚かされるが、坊の持ってくる経験石は質がいい。それに持ってくるペースも速い」
「その辺はノーコメントで。企業秘密というわけですよ」
勿論、抽出漏れという事態も生じる。今の俺の能力では、大体3%から10%程抽出漏れが生じる。
どうしても絞りきれないものは、相棒のスライムがそれを食べてくれる。そもそも魔素により堅強に育った魔物の肉は栄養素として十分だ、さらに少しばかりの魔素を摂取できるとなれば当然スライムが成長するというもの。
俺の企業秘密の1つ、それは魔物から得られる魔素の効率的な運用である。
「それよりも裏商人さん、いくつか欲しいものがあるのですが」
という訳で、俺はいくつか欲しいものを裏商人に伝え、購入する事が出来たのだ。
以上が前日譚。
今回の氷魔石は非常に値段が高価であり、オークリーダーの経験石だけでも少し足りない。
だが、一応弁明しておくが、今回のスケルトンの群れからの経験石の収穫だけで、おなじ氷魔石が4つは買えるのだから、利得計算的には得である取引だ。
俺はそういう意味では経験石の浪費家ではないのだ。