5.
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種族:スケルトン
階級:ソルジャー Lv:49
スキル
・剣術Lv3
・格闘術Lv1
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警戒すべきは、その能力。
俺は咄嗟に、自分の強みの殆どが殺されたことを悟った。
まずもってスケルトンは無生物であり骨である。それはつまり、スケルトンには毒が効かないこと、およびスケルトンに目くらましが効かないということを意味している。
その上スケルトンは疲労を感じない。回避盾として相手の注意をひきつけながら、相手の攻撃を最小限の疲労で抑え、相手が消耗するのを待つ、というのも利かないだろう。
つまり、俺にとってはあまり得意ではない相手である。
「だけど、嗅覚はないし、熱感知と音による骨の振動感知で動いているだけだ」
ならば、スケルトン用に対策を練ればいいだけ。
伊達に一人で冒険してきたわけではない、俺も様々な装備をそろえているし、そしてその中には当然、対スケルトン用の道具もある。
正直、一対一ならば俺一人でも倒せる程度だ。
問題は、向こうは群れを成しているということだ。
たった一体の能力で、レベル50程度、スキル剣術Lv3なのだ。その集団だというのだから、その討伐難易度は飛躍的に上がるというものだ。
「前衛はレベッカ、マリー、ターニャ。そしてサポートは私とジョルジュが回りますわ。後衛はリリエラ、前衛とサポートでしのいでいる間に、魔法でなぎ倒しなさい!」
アルテミスの命令はシンプルだった。
前衛を回せそうなレベッカ、マリー、ターニャ、俺の中から、レベルの高い三人に凌いでもらおうというものだ。
そしてその間に後ろから魔法使いが一掃する。
実にオーソドックスな戦い方である。
「じゃあ、俺は俺流で手伝わせてもらいましょう」
「なんだって、ジョルジュ君?」
マリーさんの声を無視して俺は自分の作業を進める。
考えられる打開策は三つ。
スライム召喚。
アイテムボックスの中で待機してもらっていたスライムに這い出てきてもらう。
そして粘性燃料を詰めたビン。
これを被った魔物は、燃料が消えるまでは火に包まって燃えるという代物だ。
氷魔石。
着弾点を中心に氷の柱や槍が炸裂し、おそらく魔物の群れの足止めに効果的だろう道具だ。
今回はこれだ。
「うらあ!」
スケルトンの群れの中心に向けて氷魔石を投げ込む。
突如、耳を劈く炸裂音が響いた。そしてスケルトンの足元からは氷の槍が次々と出現していた。
スケルトンの群れは、次々氷の槍の餌食になり胸を貫かれてもがいている。
幸運にも氷の槍を免れるスケルトンもいたが、しかしそれでもその殆どは、残念ながら足元が氷によって捉えられ、その場で足止めを食らっている。
通路を塞ぐまでには至らなかったものの、これで大幅な足止めにはなっただろう。
「ナイスジョルジュ!」
「流石ジョルジュさんです!」
レベッカとターニャから褒められる。もっと褒めていいんだぜ?
だがまあ前衛三人組は当然、さっき捉え損なったスケルトンを相手しないといけない。数体ほどのスケルトンが踊りかかってくるのを危なげなく捌く三人。無理に決めに行かず、余裕を持って交戦に当たれているのは、大量に足止めした俺の功績だと思ってほしい。
レベッカが短剣で翻弄して一体を、ターニャが体術で胸骨を砕いて一体を、そしてマリーが大剣を振り下ろして一体を、というように次々屠っていく。
その間俺とアルテミスは、後ろから飛び道具で、安全にスケルトンを撃破していく。
「スケルトンの核にひびさえ入れたら勝ち、余裕ですわね」
「アルテミスさんならそうかもしれませんけど、俺はそうでもないっす」
「あら、中々いい腕していると思うのですけれど」
飛び道具で撃破とはいえ。
スケルトンの核を寸分違わず射砕いていくアルテミスさんの腕前を隣で見せ付けられると、ははあ、と感嘆の声しか出ない。
前衛三人の邪魔をせずに、後ろのスケルトンの群れを徐々に無力化するという高等テクニック、流石である。
俺はというと、シューターで石つぶてをスケルトンにぶつけるだけの簡単なお仕事。
最初っから核は狙わず、頭蓋をねらって発射しているので楽である。
頭蓋はスケルトンの魔力供給源だし、頭蓋だけ残していたら復活するので、先に砕いておくのである。
ちょっと狙いがそれても、肩とか胸を砕いたら大幅な戦力低下につながるので足を引っ張ることもない。
「準備完了」
さて、俺たちがちょくちょくスケルトンを撃破している間に、本命の準備ができたようである。
魔術師リリエラ。
その名は「月の弓」のメンバーの中でも飛びぬけて有名である。
噂によれば、その火力をもってタイタン種を屠ったことがあるという。
そして、それはおそらく嘘ではないだろう。
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名前:リリエラ
種族:エルフ
職業:魔術師 Lv:64
スキル
・魔術Lv4++
・連続魔法Lv3
・魔力回復Lv4+
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連続魔法Lv3。それはつまり、大魔術レベルの連続魔法をぶちかますことができるという脅威のスキルである。
これはつまり、大魔術(Lv3)と特大魔術(Lv4)を同時発動できる、という脅威に等しい。
簡単に言えば、詠唱完了さえすれば、こんなスケルトンの群れなんぞ敵ではないというわけだ。
「ファイアストーム/ホーリー」
突如スケルトンの集団が暴虐的な炎に包まれる。
身を焦がす浄化の炎に、身悶えさせて苦しんでいるようだ。当然だ、普通にスケルトンは炎に弱いのに、そこに聖属性付与された魔法をぶつけられたとなれば、成すすべないというものだ。
氷魔石が解けるまでのしばらくの時間で、スケルトンの群れの大部分は致命的なダメージを負ったように見える。
次々と、膝を折って倒れる骨の集団。
最後の気力を振り絞ってこちらに向かおうとするやつらもいるが、難なくマリーらにあしらわれ、そのまま力尽きる。
やがて、スケルトンは一体も余すことなく倒れて、動かなくなった。
一方的な勝利であった。