4.
迷宮の中に入ってしまえばこちらのものだ。
レベッカはぶつぶつと何かを呟いていたが関係ない。
「ジョルジュさんお久しぶり」
「久しぶり、ターニャ。見ないうちにまた一歩強くなったように見えるね」
「そうですか? ジョルジュさんも最近オークリーダー討伐したって聞きましたよ、一人で」
「いやあ、スライムの力を借りてるから一人じゃないさ」
「月の弓」のメンバーと一緒に迷宮に潜ることしばらく。
俺はまずは皆に馴染まなくてはならないということで、会話をして適当に場をにぎやかすことにした。
幸いにして、「月の弓」のメンバー5人のうち2人とは既に見知った仲である。マリーを入れたら3人だ。
レベッカに至ってはお互いにレベルすら把握しているほどの仲のよさである。
「でもジョルジュさん、オークリーダーを一対一で倒すのって流石ですね」
「ターニャなら何とかなるさ。それに俺は罠で嵌めてから倒したから、普通に戦闘技能で戦って勝った訳じゃないさ」
「えー、それって暗に私のこと戦闘キャラだって言ってませんー?」
「あー、否定はしない。若干戦闘キャラだよなターニャって」
「ひどいっす」
そして、同じく知己の一人であるターニャ。
技能で言うと彼女の能力は非常に高い。
―――
名前:ターニャ
種族:ワーキャット
職業:武道家 Lv:61
スキル
・肉体強化Lv3++
・剣術Lv2
・格闘術Lv2
・気功術Lv2
―――
何せ、ステータスではこれほどの能力を秘めているからだ。
Lv4で世界で一握りの超一流だといわれるスキルでは、Lv2はちょうど黒帯程度、Lv3は一流の一人前、というレベルだと考えればいい。つまり彼女は剣術も格闘術も気功術も並大抵の一般人には負けない程度には技能があり、加えて肉体強化による力押しに頼ればそれこそ一人前の武道家には負けないだろうという水準だろう。
そして種族レベルでは61レベル。ギフト託宣可能なレベルまで育ちあがっている。
このレベルがどれほどになるかというと、今の迷宮のトップランカーがおよそ70レベル程度なので、彼女はほぼトップランカーぐらい、というわけだ。
「なあジョルジュ君、どうしてターニャと知り合いなんだ?」
「あ、マリーさん。彼女とは一回商人の馬車の護衛の依頼で知り合ったんだよ」
「ほう、顔が広いな」
「そんな、「月の弓」の皆と比べたらまだまださ」
ちなみに、マリーもLv64で非常に高水準となっている。
失礼ながらステータスを確認させて貰ったが、この「月の弓」のメンバー全員はレベルがいずれも60を超えている。精鋭パーティーと名高いわけだ。
ちなみに新入りのターニャを除けば、結成5年。長年一緒にやってきたということなのかもしれないが、全員のレベルはあまりばらつきがない。ほぼ全員レベル60前半である。
リーダー一人だけが少し頭抜けている、という程度だ。
「そうか? ジョルジュ君は割りと名前の知れているほうだと思うが」
「ああ、「黒髪でスライム連れたやつ」って?」
「まあそんな感じだな。悪い噂じゃないから安心しろ」
「そりゃ、一応依頼の達成率は悪くないほうだからな、俺」
マリーの言うとおり、実は俺もそこそこ実力のあるほうの冒険者である、とは思っている。
それなりに依頼をこなしているし、安定して収入もある。
ただし、自分で言うのもなんだけども欠点がある。
「でもマリー、こいつにはあまり前衛させちゃだめだからね」
「そうかレベッカ? 彼にはそこそこ期待しているんだが」
「だめよ、こいつ私たちよりもレベル高くないの」
「そりゃ、まあ、私たちのレベルが高すぎるというだけで、ジョルジュ君もそこそこのレベルはあるとは思っているんだが」
「あー、レベッカの言うとおりだわ、俺そんな強くないんで後衛でサポートに回るつもり」
俺がそう発言すると、マリーは意外な物を見るような目になった。
「すまんな、最近ギフトを貰ったばっかりでさ」
「ああ、そういうことか」
レベルが低い。
これは揺ぎない事実である。俺のレベルは、事実そんなに高くない。
それも「月の弓」と比べて低めの50後半だ、とかそういうわけではない。本当に低いのだ。
具体的な数値を口に出すのがためらわれる程度には、である。
「もちろん足は引っ張らないよ、俺こう見えてスキルには自信があるんだ」
「どうだかね」
「いやいや、レベッカも見ただろ? 俺と昔組んだとき、俺が普通に回避盾役をやってたところ」
「まあ見たけどさ、でもジョルジュ、一撃もらってしまったとき踏ん張れるか即死かはやっぱり違うよ、楯任せてるこっちのメンタル的にもさ」
やはりレベッカは心配なようだ。
その点については、「月の弓」の5人全員と事前に打ち合わせて、全員から了解をもらってはいるはずなのだが。レベッカからもしぶしぶながら許可を貰ってはいるのだが。
まあ、自己責任であると割り切ってほしいところだが、心配してくれる仲間がいるというのはシンプルにうれしい。
「皆、警戒しなさい」
「何、アルテミス」
「この先に魔物の気配がありますわ」
突然、「月の弓」のリーダーであるアルテミスが全員に注意を促した。
俺たちは会話をやめて警戒に入る。
やがて、メンバーの前方に魔物の集団が現れた。
スケルトン。この迷宮で倒れた冒険者の成れの果てである。