1.狩りとはつまりバトルではない 自己紹介編
俺は魔物の森を走っていた。
後ろには大型のオーク。種族を含めて答えるならば、正確にはオークリーダーだ。
獰猛な性格と強靭な肉体、そして一撃の攻撃力が非常に高いことで知られる魔物である。
今、俺はこのオークリーダーに追いかけられている途中だ。
「中々に早い敵だ」
「ウオオオオ!!」
事の顛末は至ってシンプルだ。
俺はオークの群れを奇襲することに成功した。方法は毒。毒を塗った弓矢を射ることで、合計で4匹のオークを屠ることに成功した。
しかし、このオークリーダーだけは毒では死ななかった。
どうやらレジスト能力を持っているらしい。それが能力なのか道具によるものなのか分からないが、いずれにせよ俺にとってはまずい。
オークリーダーはすぐに俺に気付いた。弓矢を射る俺の方向に気付くや否や、真っ先に俺の方向目掛けて投げ斧を放ってきたのだ。
とっさに木の陰に隠れたは良いものの、いい音を立てて木に刺さる斧を見るに、もしこれが直撃していたら重傷は免れないことを悟った。
このままではまずい。
俺は離脱することを選択した。
当然オークリーダーもそれを許さないわけで。
結果、今に至るわけだ。
「さて、相手のステータスはどうだ?」
―――
種族:オーク
階級:リーダー Lv:22
スキル
・肉体強化Lv2
・異常状態耐性Lv1
―――
非常に厄介な敵だ、と言える。
まずはこのレベル22、という表記。これは普通に比べて、この辺の魔物よりもおよそ1.5倍程度には強い。
この一帯で普通に生活していれば、大体はレベル15程度で落ち着くのだが、それよりもレベルが7も高いということは、つまりこいつは積極的に戦いに参加しているということだ。場数の経験は豊富と見て間違いない。
それに、異常状態耐性がついているということから、先ほどの毒の攻撃もそこまで効いていないのかもしれない。念のため、麻痺毒をしみこませた弓を放ったのだが、そこが異世界クオリティというべきか、異常耐性によりレジストされてしまったと見て間違いないだろう。
毒によるダメージ? そんなもの、麻痺毒を食らってるのに麻痺せずあんなにぴんぴんしている敵の様子を見たら、毒も全然効いていないことがよく分かるだろう。
「しかし油断ならないな」
オークというと鈍重なイメージがあるが、実態はそうでもない。
むしろ筋肉質な分、速度も十分にあるほうである。
おかげさまで徐々に距離も縮まっているわけだ。
一旦俺はオークリーダーのほうを振り返った。
オークリーダーは笑っていた。ついに獲物を追い詰めた、と言わんばかりに嫌らしい笑みを浮かべていた。
魔物には知性がある。
だからこそ、今この状況であのオークリーダーは笑っているのだ。俺のことを。
絶体絶命の危機。
というべきか。
「だが、その認識は甘いぜ豚さん」
俺は大きな木を背にして短剣を構えた。
オークリーダーと向き合って、相手の一撃を見極めるように構える。万が一つでも、オークリーダーの攻撃をしのがなくてはならないのだ。
一方のオークリーダーは走ったまま俺のほうに突進してくる。そのまま体重を斧の一撃に乗せるようだ。
勝った。
俺はそう思った。
あわや後数歩で俺のところに届くか、というところで、オークリーダーの姿は消えてしまった。
いや、消えたのではない、落とし穴に落ちたのである。
オークリーダーは足を取られてそのまま片足が沈み込み、そして上半身のバランスを崩したまま、胸から落とし穴に落下したのだ。
計算どおり、といえば計算どおりである。
「だから甘いって言ったろ」
それだけではない。
落とし穴には予め、竹槍などの突起を仕込んであり、その竹槍に体を貫かれたオークリーダーはまさに重症を負って瀕死状態である。
体をこわばらせて、何とか落とし穴から脱出しようと目論んでいるが、残念ながら深々と刺さったトラップによって抜け出せないでいる。
そのままもがけ、ますます絡んで脱出しにくくなるし傷つくだけだ。
「よし、スライム。あいつを吸収してやれ」
突如、落とし穴の底から粘液が這い上がってくる。
その粘液は竹槍にささったオークリーダーを包み込み、そしてそのままオークリーダーを溶かしていく。
オークリーダーはおそらくまず、体を解かされる激痛に身悶えし、そして次に呼吸できない苦しさに身悶えすることになるだろう。
やがてだがオークリーダーは死ぬ。跡形も残さずに死ぬだろう。
俺はそこまで考えて、一旦警戒を解いた。
装備品の点検と、毒武器の製作をするためである。
俺はジョルジュ。罠使いであり、召喚士である。
基本的にはこのように魔物をバトルせずに狩ることを目標としている。
そして、このように日々魔物を狩ってはレベルアップを目指し、少しずついろんなスキルを極めていこうと考えている、異世界からの転生者である。