そして始まる 前
昔から、大切な子がいた。
可愛くて可愛くて、最初は妹が出来たみたいだ、と嬉しかった。5つも歳下の彼女に優しくしたかったし、大切にしたかった。
でも、俺には母がいないから、両親が揃っている彼女が妬ましくもあった。
たまに、優しく出来なくて冷たくあしらうこともあったけれど、それでも彼女は一瞬だけ悲しそうな顔をしたあと、すぐにごめんなさい、と謝るから。
君が悪い訳じゃないのに、と思いながらも、素っ気なくいいよ、別に。としか言えない自分を、何度殴りつけたくなっただろう。
話し掛けたら嬉しそうに微笑んでくれる彼女が愛おしくて、独り占めしたくなったのは、いつしか妹以上の感情を持ったのは、いつだったんだろうか。
はっきりとは覚えていないけど、確かに彼女は俺にとっての特別になった。
俺は今まで以上に優しくしたし、慈しんだし、俺に出来る精一杯で彼女を守って愛した。
別に報われなくても構わなかった。彼女が俺に向けて笑ってくれるなら、それだけで俺はいいと思っていた。
それから暫くして、俺と彼女の婚約が決まった。
俺が15歳彼女が10歳の時だった。彼女の父との約束で、結婚は彼女が高校を卒業してからに決まった。
予想外過ぎて、どんな反応をしたらいいのか分からなかったけど、彼女を見れば嬉しそうに満足そうに笑っていたから。
ならば、と。
俺がこれから先、愛するのは彼女だけ。
俺が出来るすべてで、彼女を守り慈しみ幸せにしようと誓ったのだ。
彼女に幻滅されないように、今まで以上に物事に取り組んだ。
正直、彼女を欲望のままに抱いてしまいたいと思ったこともあった。それでも、彼女が、どうしようもなく大切だから。
俺は手を握るだけで、それだけで充分 幸せな気持ちになれることを知っていたから。




