喪い始める日
私が言えるのは、あの子は幸せだった、っていうことだけ。
私の親友は、優しくて愛らしくて物語に出てくるお姫様みたいな子だった。
お姫様には王子様が付きもので、お姫様に紹介された王子様は、とても素敵な人で優しくて大好きだった。
もちろんそれは、恋心なんかには成りようがなく、憧れみたいなものだった。だって、王子様の相手はお姫様しかなれないでしょう?私は、一番近くで、お姫様と王子様を見ていられるだけでよかった。
2人はとてもお似合いで、そんな2人を見ているだけで嬉しかったし、幸せな気分になれた。
私は、2人に付き従う侍女でよかった。
2人の傍にいられるなら、なんでもよかった。
2人共、大好きで大切な人だから。
ずっとずっと幸せに暮らしました、そんな物語の結末を夢見ていたし、その結末を無条件に信じていた。
それが、脆くも崩れ去るなんて、想像したこともなかった。
泣き崩れる親友を抱きしめて、私は一緒に泣いた。
慰めの言葉は意味もなく、ただただ意味を持たない形だけの言葉がこぼれ落ちるばかりで。
親友の涙を止めたいのに、止める術は無くて。
ただただ抱き締めるだけで。
なんで、どうして、お姫様はここにいるのに、王子様は眠ったままなの?
お姫様、泣いてるよ、慰めに来ないと。
ねぇ、お願いだから、目を覚まして。
お姫様が壊れる前に、早く。
私が知っている王子様は、お姫様を泣かせたままにしておく人じゃないでしょう?
あの時 確かに願った結末は、こんなものじゃなかったのに。