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土御門ラヴァーズ  作者: 猫又
第一章
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賢ちゃんと和泉と生首7

 子供の頃の思い出はいつも土御門の三兄弟と重なる。どの場面にも三兄弟の中の誰かが顔をのぞかせているのだ。賢とは同い年だから幼稚園から高校までずっと同じ学校だった。 和泉は母親に連れられて物心つく前から土御門本家によく出入りしていたらしいのだが、実をいうとあまり覚えていない。和泉にとって土御門家は怖い家だったからだ。お化けを見たわけでもない。むしろそういう奇っ怪な物達からは敬遠される家だろう。だが和泉には家そのものが怖かった。

 三兄弟もまたよく和泉を怖がらせるような話をした。開かずの間の話や彼らが夜中に見た

怪しい物の話。子供の頃は誰もが純粋に残酷で、よく遊ぶ仲のよい親戚の女の子相手にでも容赦なく語ったのだ。和泉はよく泣きながら屋敷の中を駆け抜け、母親を探し回ったものだ。彼らは朝子に叱られたが、翌日にはまた和泉を誘いに来て、そして和泉は泣きながら屋敷の中を走るのだった。

 だから子供の頃は賢をはじめとして弟二人もあまり好きじゃなかった。三人が兄弟喧嘩しているのもよく見たが、和泉を虐める為には仲良く結託するのだった。

 特に賢は意地悪だった。虫や蜘蛛を見せられたり、その頃飼っていた大きな犬をけしかけられたりなんてのは日常茶飯事で、おやつは取り上げられるし、靴を隠されたり、頭から水をかけられたり、と笑えないいたずらが多かった。もちろん霊がらみの怖い話をするのはいつも賢だし、自分には見えるし追い払える力がある、と自慢げに語っていた。

 大きな土御門家の長い壁をずーっと何分も歩いて、隣が小さな駄菓子屋、そして小さな我が家がある。駄菓子屋とうちを足しても土御門家のガレージにも満たないのだが。賢にいじめられて泣きながらガレージに逃げ込んで、閉じ込められた事もある。何時間も暗いガレージに閉じ込められたせいか、今でも暗い狭い場所は苦手だ。

 だから正直言って和泉は賢が嫌いだった。

 小学校のころ、夏休みに朝子が三兄弟と一緒に田舎に連れて行ってくれた事があるがずぶ濡れで泣いている場面しか覚えていない。どうせ三兄弟にいじめられて川にでも落とされたのだろう。だからこの年がきても泳げないし、泳げるようになりたいとも思わない。

 中学に上がったころからあまり三兄弟とは遊ばなくなった。賢とは学校で会っても挨拶さえしなくなり、和泉は同じクラスの女の子の友達と遊んだり、部活動に忙しくなった。

 今では賢と会っても挨拶くらいはするし、仁や陸とも仲良く話は出来るが、幼い頃の思い出はあまりいい物ではない。だから本音を言えば土御門本家が何を本業としているのか興味もなければ、あまり近寄りたくもなかったのだ。

 和泉の家は土御門を名乗っているけれど父親はサラリーマンで母親は主婦という普通の家庭だ。先にも述べたが両親には金魚の霊すら見えない。金魚の霊が存在するかどうかは置いといて、若い頃に二人揃って有名な幽霊スポットで一晩明かしても何も見えなかった事を実証している。土御門に生まれても見鬼でない人間は大勢いる。三兄弟のように揃って霊能力が備わっているのも珍しいのだが、和泉の親は見鬼である土御門本家の三兄弟をたいそう尊敬していた。特に賢を大事にしていて、賢の言う事ならなんでも頭を下げてきくのだ。もちろん賢がそれを良いことに無理を言うという事はない。

 賢は意地悪だが、傲慢な人間でなかった。

 見鬼である和泉は子供の頃から何度も恐ろしい思いをしてきた。特に三兄弟が面白可笑しくそこら辺りを浮遊する地縛霊を捕まえたりして遊んでいるのを見ては泣きながら逃げ出したものだ。それが面白くて賢などは何度も何度も和泉に嫌がらせをしたのだ。

 その恐ろしさは想像を絶する。自分で霊を追い払えない和泉はぶるぶると震えて、泣きながら賢にお願いするしかないのだ。

 悪ガキの域を超えている。普通ならば女の子を虐めるにならば虫やカエルなどになるのだろうが、彼らの場合は浮遊霊だ。最悪の場合、悪意を持つ霊である事もありうるのだ。

 少しずつ成長して、いつしかそんな悪戯はしなくなったけれど、その時の恐怖は今も忘れない。だから、子供の頃の話とはいえ、そんな男を好きになんて絶対になれない!

 これだけは断言できる。

 賢とだけは恋に落ちない。

 つうか、落ちたくない!


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