和泉と美登里と本家2
「あーあ、うまくいかねえな」
と言いながら、再び箱を取り上げていると、
「グゲゲゲゲ」と声がした。
「何だ、黒凱」
部屋いっぱいに広がる漆黒の羽根をばさばさと羽ばたかせ、大きな猛禽が姿を現した。
賢が霊力で使役する式神の黒凱である。
力強く、美しい。そして最高の攻撃性を備える、賢の第一式神である。
賢はかの優秀な先祖にならって十二の式神を操る。
最高位は黒凱、第二位は抜群の守備力を誇る白露である。第三位より後はいずれ出てくるだろう。まだ考えていない。←?
「グゲゲゲゲ」
「え? ああ、いたなぁ、和泉の足下に美登里の式だろ? 一狼が。え? 生意気だ? それは…知るか。自分で言えよ」
「グググググ」
「やめろ、一狼を食うな。あれは美登里の命で和泉を守ってるんだから」
「グググ」
「だったら、白露を戻せって……それは…駄目だ」
「ゲゲゲ!」
「うるさい!」
コンコンとノックの音がした。
「誰だ」
「和泉ですけど」
慌てて賢はドアを開けた。
「大丈夫? 身体が不調なんでしょ? 具合、悪いの?」
美登里に「賢様は身体が本調子じゃありませんので、あなたが様子を見てきてください、和泉さん!」と言われた和泉がやってきた。
和泉の姿を見た黒凱が「グゲゲエゲゲゲゲ!」と叫んだ。
「え? 何?」
「中に入れ」と賢が和泉の腕を引っ張った。
和泉が部屋の中に入った瞬間、「キエエエエエエエエエエエエエ」と鳴いて、白露が和泉の着物から飛び出した。
深紅の着物の綺麗な白い鳥の柄は白露だった。
ついでに一狼もぴょんと部屋の中に飛び出てきて、和泉の足下に座った。
黒凱がばさばさと激しく羽ばたき、白露が黒凱の側に飛んで行った。
二羽は仲むつまじそうに天井の上の方で絡まりあい、開け放った窓からベランダへ出た。 ベランダの手すりに仲良く留まり、つんつんとつつき合ったり、毛繕いしたり始めた。
「仲良しなんだ」
「つがいだからな」
「え、夫婦?」
「ああ、黒凱と白露と呼んでるが、本当は鳳と凰。二羽で一対の鳥だ。徳の高い天子が現れる時に降臨する鳥、それが鳳凰」
「へえ、すごい」
和泉は仲良くいちゃいちゃする二羽を見ていたが、
「じゃあ、しばらく離れてて寂しかったんじゃ? っていうか、あたしのせい?」
「グゲゲゲゲ」
「全くだ!」という風に黒凱が鳴いて、白露もうなずいたような気がする。
「和泉のせいじゃない。俺が和泉を守るように命じただけだ」
「でも…今はイチロー君がいるから大丈夫よ。ね? イチロー君」
足下に行儀よく座っている一狼の頭をなでながら、和泉が言った。
「イチロー君って……」
「あのね、この子、すごく柔らかくて暖かいのよ。一緒に寝るとコタツいらずだもんね?」
「い、一緒に寝るって……」
賢の顔に大きな怒りマークが発現したのを和泉は気がつかない。
「きゅーん」
いち早く賢の怒気に気づいた一狼は尻尾を丸めて和泉の後ろに隠れた。
「大きくて枕代わりになるし、もふもふし放題だし」
「俺だって…枕の代わりくらいいつでも……やらせてもらいますけど……もふもふだっていつでも準備オッケーなんですけど……」
「え? 何?」
「いえ、別に……白露! 戻れ!」
と賢が言い、白露は辛そうに「キエエ」と鳴いた。
黒凱は不服そうに低い声で威嚇するかのように鳴いた。
「言いつけを守れないなら位を下げてやるから、好きにしろ」
と賢は黒凱に冷たく言った。
「グググ」
「位って?」
と和泉が聞くと、
「式神第一位は使役する主人を守るのが使命。その命に従えないなら位を下げるか放逐する。他にも第一位式になりたい妖はいくらでもいる。式神の中でも権力争いがある。黒凱の位を狙っている妖はたくさんいるのさ」
「へえ、でも、黒凱は一番強いから一位なんでしょう?」
「そうだな、だが、俺が誰に力を入れるかで位は決まるからな。白露に力をいれれば逆転するし、その一狼を新たに迎え入れれば一狼の位が上がる」
部屋の中がざわっとした。
敏感な一狼は「キューーーーーーーーン」と小さく鳴いてから、大きな身体を小さく丸めた。怯えているようだ。部屋の中の温度がぐっと下がった。
見えないけれど部屋の中に潜んでいるであろう、三位以下の式神がいっせいに一狼を睨みつけたようだ。一匹入れば、一匹はじき出される。
土御門の最高位の式神は十二神と決まっているのだ。
「黒凱は白露がいなくて寂しいんでしょ? あたしはイチロー君がいるから大丈夫だよ」
「駄目だ」
「キエエエエ」
と白露が声高く鳴いて、黒凱の首筋にすりすりと頭をすりつけてから、ふわっと舞った。 そしてひらひらと身体を小さくして、和泉の着物の中に舞い降りた。
「ワンワン」
一狼も急いで柄の中に飛び込む。外に出ていれば身の危険を感じるらしい。
「白露をお前につけても黒凱が寂しくならない方法もあるんだけどな」
と賢がつぶやき、黒凱は「グゲゲゲェ」と気の毒そうに賢に向かって鳴いた。




