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土御門ラヴァーズ  作者: 猫又
第一章

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17/107

賢ちゃんと和泉とデートの時間

「映画を見に行きませんか」

 と若尾刑事に誘われたのは、七月後半の三連休だった。もちろん何の予定もない和泉は喜んでお誘いを受ける事にした。微妙な年頃の和泉の友達は結婚している人が多く、子育て中というのもいる。家族単位で出かける彼女らは誘いにくいし、会社の友達のグループは若い子か、それ以外に分別される。和泉は若い子ではなく、それ以外のグループでは年配の独女が仕切っている。彼女らは海外の若いアイドルの追っかけをやっているが、和泉には興味がない分野なので、そこにも加われず孤独な連休だ。唯一気の合っていた美香子はお供を引き連れてくるだろうし、ちょっと今は会いたくないのが現状。

 彼氏でもいたらすべて解決なのに。

 家でごろごろていたら母親に使われるので、若尾刑事のお誘いにほいほいと乗って出かけてきたのだ。

 アクション物のハリウッド映画は面白かったが、連休のせいで大混雑だった。映画の後、入ったレストランで和泉達は一息ついた。

「面白かったわ」

 と和泉が言うと若尾刑事は、

「喜んでもらえてよかった。しかし混んでましたね。人間も、人間じゃないのも、たくさんいたなぁ」

 と言って笑った。

「え、うそ」

「あれ、気がつきませんでした? わりといましたよ。人間のふりしてる奴」

「どうして、わざわざ人間のふりして映画館にいるのよ」

「映画が見たかったんじゃないかな。お盆も近いしね」

「れ、霊魂が映画を見るの?」

「そりゃあ、好きだったら見るでしょう。僕も映画好きなんで、死んだ後に残る未練の一つとしてもう面白い映画が見られないって事、分かるなぁ」

「そうなの?」

「ええ、何より好きな事が出来ないっていうのは不幸ですよ。僕も霊になって出るなら映画館かな」

 はーとため息が出る。わざわざそんな事教えてもらわなくてもいい。

「何にします? ここシーフードがおすすめらしいですよ」

「そうなの? じゃ、このシーフードのパスタセットにしようかしら」

 メニューを開けて目移りしていると、

「あれ、小池美香子さんじゃないかな」

 と若尾刑事が言った。

「え?」

 顔を上げると、やけに派手な格好をした美香子がレストランの入り口で中を見渡していた。混んでるわね、と言う風な素振りで振り返った背後には、

「賢ちゃん!」

 賢が立っていた。

 思わず立ち上がった和泉に気がついた美香子が、すたすたと和泉達のテーブルにやってきて、

「つっちー、こんなとこで合うなんて。あら、刑事さんじゃない。もしかしてデート?」

 と気軽に言った。 

「いやぁ、そんあ風に見えますか。まいったな」

 と若尾刑事が頭をかきながら答えた。

「ね、知らない顔じゃなし、相席でいい? 一時間待ちって言われたのよ。そんなに待てないわよね。ね、いいでしょ?」

 と強引に決めると、入り口でこちらを見ていた賢の腕をとって連れて来た。四人がけのテーブルは正方形だったので、四人がお互いに向かい合うように座った。

「賢ちゃんが、どうして美香子と」

 と賢に聞くと、

「俺にも分からねえ」

 と無表情に答えた。

「何よそれ」

 メニューを決めて注文すると、美香子はレモン水の入ったグラスを持ち上げた。

「この偶然に乾杯!」

 と言ってから、

「紹介するわね、土御門君、この人刑事さん。刑事さん、彼、土御門賢さん」

 あまりよく分からない紹介をした。

 若尾刑事は興奮を隠しきれない様子で、

「若尾です。よろしく。土御門家の事は知っています。次期当主の賢さんにこんな所でお会いできるなんて嬉しいなぁ」

 と言った。賢は、

「どうも」

 と言っただけだった。

 ちなみに、今更言うまでもないことだが、井上と島田先輩はやはり美香子の背後に立っている。時折、他の客が不思議そうな顔や驚いた顔で美香子の方を見るのは、世の中には霊感の強い人間が大勢いるのかもしれない。

 島田先輩はいつも通りしゃきしゃきとつぶやいているし小刻みによく動いている。井上は相変わらずむっつりとしていたが、時々、顔を上げて左右を見るような動きをするようになった。そして、その時だけは少し怯えたような表情になる。

「美香子と賢ちゃんがどういう経緯なの?」

 と聞くと、

「だって霊が憑いてるって言われてそのままでいられないでしょう? 土御門君に相談にのってもらおうと思ってさ。つっちーが土御門君の霊能力は本物だって言うし」

 と答えた。

 和泉は賢を見て、

「井上君と島田先輩を祓うの?」

 と聞いた。

 賢はグラスのレモン水を一口飲んで、

「どうかな、特に小池さんに悪さをするわけじゃないんだったら、いいんじゃねえの」

 と乗り気のない様子で答えた。

 それから美香子の背後に目をやったが、少し目を細めた。

 賢の視線は井上をじっと見ている。井上はまた左右を見渡して、その時、賢と目があったのだが、その時はふいと目を反らした。

「あら、駄目よ。あたしが殺したわけじゃないのに、あたしに憑かれても迷惑よ」

 和泉は美香子の顔を見ていたが、

「それにしても元気よね。美香子。普通、ふたつも霊に憑かれてたら、体の具合悪くなりそうなんだけど」

 と聞いた。

「こういう人間は割といる」

 と賢が言った。

「そうなの?」

「ああ、自分に一点の非もなく、恨まれる覚えもない、そういう人間は割と平気でいる。自分に少しの迷いも悩みもない。自分が世界の中心と思ってるタイプは霊を跳ね返す。元々、霊感もそれに近い感覚も持ち合わせていないから、霊が憑いても感じない。その周囲にいる敏感な人間に霊障が出て、迷惑な場合が多い」

「へえ、そうなんですか。勉強になります」

 と感心したように言ったのは若尾刑事だった。

「?」

 賢が首をかしげたので、和泉が説明した。

「若尾刑事さんも子供の頃から霊感があって、今も井上君と島田先輩が見えるんですって」

「へえ」

 と賢が言った。

「僕、本当は土御門さんに弟子入りしたいんです」

 と若尾刑事がまた仰天発言をした。


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