宝
いきなりで申し訳ないが、俺は親馬鹿だ。
娘のアイリを生んですぐに妻が逝き、アイリは俺の全てになった。
アイリは本当に賢い子で、2歳のときにはもう言葉を覚えていた。
顔も俺よりも妻に良く似ていて、将来美人になることは疑いようもない。
なんせ、妻は国一番の美人だと言われていた程だ。
そんなあいつを落とせた俺もなかなかのイケメンだがな。はっはっは!
ただ、最近アイリの様子が少しおかしい。本人にもわからないらしいのだが、何かをとても不安がっているのだ。
毛布にくるまって、一緒のベッドで横になっているアイリが、俺のことを見つめている。
「パパ、ずっと一緒にいてね・・・」
「ん?当たり前だろ?アイリにお婿さんができるまではね!」
「んもー!お婿さんなんていらない!私パパとずっといるもん!」
ふふ、可愛いやつめ。
しかし、おちゃらけてみたものの、今日も何かをとても怖がっているようだ。
子供特有の敏感な時期なのかもしれないな。俺も子供の頃は、将来親と離れることを想像したり、自分や親がいつか死ぬということを考えては、怖がってた記憶がある。
アイリの不安を拭うために、アイリが大好きな勇者と魔王の絵本を読む。
ある日突然この世に現れた、神の力を持つもの「勇者」が魔物を蹂躙し、ついに魔王を討ち滅ぼす話だ。勇者の成長速度は凄まじく、魔物の群れを素手で殲滅できる身体能力、国を滅ぼすことすらできる魔法やスキルを持っていたという。実話だけになんだか羨ましい。
初めは勇者の無双っぷりに、興奮して聞いていたアイリだったが、疲れているのか気づいたら眠ってしまっていた。
寝顔も寝相もあいつそっくりだ。いつも俺の腕に両手で抱きついて寝るんだ。愛しくて、懐かしくて、すこし哀しい。
俺はゆっくりとアイリの髪を撫でながら、静かに眠りについた。
翌朝、アイリの様子がいつもと違った。
「えっと、おはようございます」
「?おはよう」
いきなり敬語とは、寝ぼけてるのかな。
「今日の朝食はアイリの番だったよな?まだ作ってないの?」
朝食といっても、果物を潰してミルクを混ぜただけの、簡単なものをいつも作ってもらっている。
「あ、はい」
「・・・?」
「あの、ちょっと気分が優れないので、今日は朝食抜きでお願いします」
「あ、ああ。そっか。じゃあベッドであったかくして寝ておきなさい」
なんかよそよそしいな。どうしたんだろう。