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王太子殿下とお出かけです。(前書きに簡略人物紹介有)

☆イース王国の人々☆


リグレットノア・セイダロン・イース:現世主人公

セーヤ・ギュスターブ:イース王国南方軍将軍(前世主人公に激似)

ラシュート・ゴールデンタビー:イース王国識者

スタメラン・イース:イース王国王太子

ナタラ:リグレットノアの侍女 セイダロン随一の俊足

スワジ:鍛冶屋の息子 サファーウィに振られた人 変態

ミーシャ:スタメランの愛妾 セーヤの元婚約者 豪商の娘

ボウ:豪商 ミーシャの父



☆他国の人々☆


キーディリ・セイダロン:主人公の兄 セイダロン国王代理

ビサーブ・セイダロン:主人公の弟1

ハース・バム・セイダロン:弟2 双子

ビーズ・バム・セイダロン:弟3 双子

セガイ・メルセゲル:メルセゲル皇国皇太子



☆リグレットノア後宮の人々(現在8名)☆


アンバラ:農婦 ゼノビアの姉

ゼノビア:農婦 アンバラの妹

ルゥルゥ:踊り子見習

キアロ:弦楽器奏者

ジュメル:子爵家下女

アルアイン:酒場の皿洗い

サファーウィ:靴屋の娘

アジュア:教会下働き


次の日。朝餉の時間になっても王太子は現れなかった。だから皆で和気あいあい。

ようやく、あっちで食べてくれる気になったかとほっとしていたら、ナタラの耳打ち。


「ミーシャ様は自室でお食事されているそうです」


ミーシャの部屋は広い。朝餐ではなくただの朝餉なら不便も窮屈さも無いが、俺がそうさせているようで、あまり良い気分にはなれない。あの二人には堂々としていてもらいたい。


「王宮の食事室をお使いになればよろしいのに」

「いえ、厨房の話ですと、ミーシャ様だけとのことですので、王宮には行けません。ご無理です」

「…そう」


王太子、腹の具合でも悪いのか? 今日のお出かけはナシ? それなら、俺は、アンバラと一緒に網結針を作りたいな。


「姫!」


ずかずかと入って来る。いいよ、この部屋にノックは要らない。誰も特別扱いは無い。そのために後宮の食事室の扉はいつも開いている。でも、ああ、俺の和気がどこかへ飛んで行く。


「朝餉は済んだか?」


ここに入れる唯一の男が言う。

頷いてから、立ち上がり、礼を取ろうとする俺に口早に続ける。


「では、行くぞ」


どこへ行くか聞いてない。それじゃ支度もできない。


「どちら……」

「付いて来るだけでよい」

「支度があり」 

「なにも要らぬ。そなた一人居れば良い」


俺に喋らせる間を与えないつもりか。そんなところは王陛下にそっくりだ。


「失礼ながら」


口を挟んだのはサファーウィだ。


「ミーシャ様も行かれるのならば、私もご同行してよろしいでしょうか? 一昨日のようなことがありますと心配です。私だけでも、主様の盾になりたく思います」


王太子はミーシャを守っても、俺を守らないだろうから、せめて自分が盾になる、か。

遠回しだが、はっきり伝わったぞ。ほら、王太子が目ん玉を見開いてるだろ。

まったく、血の気多すぎだ、俺の天使は。


「サファーウィ、そのようなことをさせるために、あなたを後宮に入れたのではありません。あなたは私に守られるべき存在なのです。逆ですよ」


そんな拗ねたような目で見てもダメだから。

王太子がミーシャを守るのなら、俺はおまえを守る。そういうもんだろ? 後宮主ってのは。


「ミーシャは行かぬ。姫の護衛は連れて行く。心配せずとも良い」


おおっ、フォローした、驚きだ。ま、あくまで、俺は護衛任せで、自分は守らないと宣言したも同然だがな。王太子の細腕では、どっちみち不安だから、ミーシャも誰かに任せたほうがいいぞ。

サファーウィはそこで目線を下げ、軽くお辞儀をし、退く意を見せた。


「ナタラも行くから、心配しないで。今日は、中庭の様子を見てくださいな」


ちょっと可哀想になって俺もフォロ。サファーウィが寄越した視線はまだ恨めしげだったが、それでも頷いてくれた。


 この判断が英断だったと、後に俺も王太子も思い知る事になる。






王宮から馬車で出る時は、通常は裏門を使う。今回は王太子が居るから表門だ。馬車も王宮正面に着けられる。一昨日は馬丁溜まりまで歩いて行ったのに。別にどうでもいいが。


馬車に乗り込むために、裾を持ち上げたら、王太子が馬車内から手を差し出す。が、気付かないフリで、踏み台を探って、足を着けた。


「意地を張るでない。転んでからでは遅い、姫」


転ばなきゃいいんだろ? あと二歩だ。俺の身長では足掛かりが高い。上身を反らしておもいっきり足を上げ……ふらっと仰ける背を後ろから支えられる。危なかった。


「ありがとうございます」


言えばセーヤが微笑んで、俺をそのまま馬車へと押込んだ。そこで無情に扉が閉まる。


 聞いてないぞ、こら! 王太子と二人っきりなんて!


「姫、座った方がよい」


窓にへばりつく俺に、王太子が苦笑しながら言った。


「他の、者も、一緒に乗れば、その」

「皆すでにどこぞに乗っておる」


これは王太子夫婦の馬車なわけで、従者は同席しないのが通常。が、王太子がそれをするとは思わなかった。俺とは馬車を別にするか、もしくは従者付きだと。


 初めての二人っきり空間にヘンな汗が出る。


「ミーシャ様もお連れすればよろしかったのではありませんか」


無駄なあがきと思いつつ。


「妾妃は自由に後宮を出られぬ」


むすっとしたご返答。


「殿下とご一緒ならば良いのではありません?」


そして返答なく、無言。


王都の馬車道はきちんと整備されているようで、おかしな横揺れもせずに進む。ガタゴト音がしない。


 静寂。


時が長い。誰か助けろ。


唐突に王太子が口を開く。


「ミーシャの自由を私が奪ったのだな」


それをずっと考えてたんかい! さっき言っただろうが。


「殿下とご一緒ならば自由にできましょう?」


くっと、王太子の顔が歪む。


「それでも、以前のミーシャほど自由にはならぬ。あのような場に閉じ込めて、ミーシャは幸せなのかと、しばしば思う」

「お聞きになったらいかがでしょう? 恐らくお幸せだとおっしゃることと思います」


知らんけど。


「日がな一日後宮に居るのだぞ」


好きで居るんだろうよ。市井に居たって、ぶらぶらしていたんだ。やりたいことがあるとも思えない。ヒマなら子でも作ればいいだろ、と言えない所がツライ。兄上の顔がちらつく。王太子とミーシャとの間に子ができたらリミットが切られる。待ったなしだ。だからそれには触れない。


メルセゲル皇国は、メルセゲルとイース両家の血を引く養子をメルセゲルの名のままイースの玉座に据えるつもりだ。早ければ養子を貰った翌日にでも、イースの王族、陛下と王太子を謀殺してな。


その子は故王太子の唯一の遺児となるが、愛妾ミーシャの子でもあるために本来ならば継承権を持たない。同じく継承権を持たない妾の子、故前王の子は他にも居るだろう。その妾腹の子は、男女ともに、貴族と姻戚を結ぶことは許されず、母の実家へも戻れず、無配の臣に下るしか道がなかった子供達だ。この期に名乗りを挙げる者はいくらも居るだろう。そして、この期に乗じて下克上を狙う貴族も居るだろう。いい具合に内乱が盛り上がって来た頃に、故王太子正妃の俺を救うとの名目でセイダロンが介入し、ついでに何の罪も無い有力貴族や軍の実力者の駆逐もやっちまう。内乱がなくてもでっちあげて介入し、同じ事をする、たぶん。そして、故王太子の遺児はイースの王冠を戴いたまま、俺がメルセゲル皇太子の内裏に入内すれば、メルセゲル支配の属国イース王国のできあがりだ。


すげえキナ臭いが、臭くてもなんでも表向きそうなれば外交は落ち着く。


 この間、一年もあればいいほうだ。


その後、例え故王太子の子であるイースの幼王が退けられても、場合によっては暗殺されても、次にイース王国の玉座に就くのは亡き幼王の養家であるメルセゲル王家の者になる。


これはメルセゲル皇太子、つまり俺に子ができたら、為される。


と、ここまで俺は読んだ。全て子ありきの話になる。


兄上のことだ、子はなくても、もう二捻りぐらいかまして同じ結果に持ち込むと予想できる。それでも三年が限度だ。兄上は気が短い。


だというのに、この男は。


「そなたは忙しいようで、なによりだ」


おまえもやることやっておけよ。命かかってるぞ。


「姫? いかがした? べつに嫌味ではない。気に触ったのなら許せ」


最近これが多い。俺は嫌味でもいいぞ。


「いえ……そういえば、王陛下の妾妃様方は、何をなさっておられるのでしょう? 殿下はご存知ですか? ご不自由そうでいらっしゃいます?」

「不自由しているようには見えんな。なにをしているともない様子だ」


そうですか、と静かに相槌したあと、


「王妃様とお茶の時間をお持ちになるのはいかがでしょう? ミーシャ様と王妃様の仲が深まれば、殿下もご安心でしょう?」


また、王太子の顔が歪む。


「そう、だな。それにしても、そなたの後宮の、あの者達は賑やかだな。ミーシャも慰められておる」


話を逸らしやがった。俺の羊さんとミーシャはケンカしかしてないじゃないか。

でもまあ少しでも夫婦円満に貢献できたのなら、


「それは幸いにございました」


心からのにっこりをお見舞いしてやろう。


「そなたは……………」


もう、黙っていい。意味のない会話をするぐらいなら沈黙のほうがマシだ。


「セーヤに会った時に、泣いておったな?」


うっへー。それ聞く? 今聞く?


「なぜかと、問うてもよいか?」


よくない。下手な事は絶対言えない。似てるヒトを知ってるとか言ってしまったら最後、言及されるに決まってる。


「教えてはくれぬ、か」


うん、無理。


「もしや、運命を感じたのではないのか?」


確かに。運命のイタズラをな。


「私も、ミーシャに会った時にそう思った」

「それは良うございました」


すかさず合いの手。俺の事は放っておいてくれ。


王太子は首を振った。


「運命とは何なのだろうな」


俺に聞くな。おまえの運命なんか知らん。

あ、知ってるか。このままだと近いうちに確実におまえは死ぬと。


「そろそろ着く」


ん? と窓を見れば、そこには覚えのある趣味の悪い門柱が…。


まさか、俺をあのおっさんに引き渡しに来たとか? 約束通りにって? 


「姫」


ぐいっと王太子が傍に。ずいっと離れさせてもらう。


「そなたは黙っておれば良い」


黙って素直に渡されろと?


「そのような顔をするでない。錯誤を正す。そのために来た」


また傍に来るから、隅に寄って首だけ振る。何か喋ると罵倒が出そうだ。


「そなたの前で正したいのだ」


錯誤はおまえ一人の責任で正して来い。俺は中心人物だろうが、関係は無いんだ。よく考えてみろ。


王太子は溜息一つ。


「証文の件もある。金は返さねばならぬだろう?」


はあ? そっちはおまえが関係ない。俺の方の問題だ。


「ラシュート様と相談して決めますので、ご心配には及びません」


対策を詰めるヒマが無かったんだ。昨日の今日だ。利子は付かないからそこまで急いでないし。


「姫。この件は私に任せよ」


腐ってもミーシャの父親だ。おかしな事になる前に止めたいのだろう。だが、他にもたくさんやってるはず。こんなもの可愛いほうだと思うが、それで気が済むのならやればいい。

俺はあの子達さえ無事ならどうでもいい。メルセゲルに行く事になれば皆一緒に連れて行く。


「わかりました。お任せします」


王太子は、ほうっと息を吐いて、少しだけ笑んだ。


「では、行くぞ」


と差し出された手を、俺は無視して立ち上がった。正妃は役職。宰相の手をおまえは取るのか? 取らないだろう。適度な距離感は大事。


馬車から降りれば、強張った顔のセーヤと、能天気なラシュート、それにナタラと従者AからEが揃っていた。

そしてやっぱり門まで出迎えに来ていたボウのおっさん。俺を見てニタニタ笑う。


「ようこそ、ようこそ。殿下、本日は、わたくしのためにわざわざお運びいただき、まことに恐悦至極…」


王太子は、ボウを一瞥し、ラシュートに顎をしゃくる。代わりに応対しろと。


「ボウ殿。挨拶はそこまでに。用件をここで済ませるおつもりなら我々は構いませんが、誰が見ているとも限りません」


そして、ボウのひきがえるは俺をまた見てニヤニヤと。


「ああ、いやいや、どうぞ、中へ、さああどうぞ」


大げさな手振りで、中へと。


デジャブなんだがなー。また繰り返すのかなー。キモイなー。


のろのろ歩いていたら、何を言うこともなくセーヤが俺の横へ。ナタラは従者共々後方だ。


相変わらず趣味の悪い廊下を通り、案内されたのは豪華な応接ソファの鎮座する部屋。この前は豪華なベッドが鎮座していたな。


「茶は結構。本題に入ります」


座るなり、テーブルに証文を広げて、ラシュートが事務的に言った。そして間髪入れずに金貨を数枚、ぱちりと置き、


「お返しします。火を」


証文を焼き捨てる為の火を要求した。


「金を返せば、その約定は反故になるな?」


抑揚の無い王太子の言葉に、ボウは証文を刮目してから、


「え、そ、そうですな。殿下がそうおっしゃるのであれば…。おい、火だ、火を持ってこい、すぐに」


戸口に立つ使用人に怒鳴るように催促した。


どうしてこの証文を王太子が持っているのか、ボウとしては確かめたいだろうが、目の前に本物がある以上、何をしても無駄なことだ。王太子にそれを追求すればかえってやぶ蛇。内容をスルーし、証文を焼いて無かったことにしてくれるならそれに超したことはない。ボウもそれをよくわかっている。


 書いてあることが最低だからだ。


例に一つ挙げるなら、正妃を王太子の寝所へ行かせぬよう常に見張り、妨害すること、とある。具体的な方法として、俺に下剤を盛る、寝衣を裂く、縛る等と書かれている。

これ、おまえの趣味だろ? こんなことを正妃にしたら、あの子たちの命は無い。バレたらボウの命だって無い。しかし、ボウはそうは思っていない。正妃は自分のものだと信じているからだ。正妃をどんな目に合わせても、それはボウの勝手だ、と。もちろんおおっぴらにはできないが、うやむやにはできると思っていたに違いない。


バケツのように大きな灰皿の中で燃え尽きる証文を眺め、ボウはムリヤリ口角を上げた。


「これは清算ですな。これは」


このおっさんが、もう少し賢ければ、こんなものは覚えが無いとシラを切っただろう。丸見えな嘘でも、よほど保身になる。


「では、もう一つも清算に入るか」


王太子の意味ありげな笑みに、ボウも目一杯笑み返す。


「謹んでお受けします。これでミーシャも安心することでしょうなあ。正妃様をわたくしめに遣わしていただけるとは」


内心が顔に溢れ出てるぞ。俺を使って何を想像してるんだか。


「ボウ、私がいつ正妃をおまえに渡すと言ったのだ?」


へ? とおっさんが素っ頓狂な声を上げた。


「約束されたではありませんか。通い妻として遣わしてくださると」

「そんな約束をした覚えは無い」

「な、なにをおっしゃいます、確かに、言われました。ギュスターブ将軍もその場におった、ミーシャの前で、儂の前で、誓ったではありませんかっ、ミーシャ、ミーシャを連れてきてください、殿下だって、それならお約束を思い出されるでしょう」


口角泡を飛ばすの図を初めて見た。

なるほどな。約束をしたのは王太子。セーヤはそこに居合わせた。ミーシャも居た。それで、ミーシャは勝ち誇った顔をしていたわけか。王太子が俺を連れてボウに会いに行くのなら、約束が果たされると思ったんだな。ということは、約束が確約ではないにしろ、王太子の真意は約束の内容と同じだったはずだ。女は細かい。いらん言葉の端々をよく覚えている。


「私は、約束を忘れたなどとは言っていない。約束などしていないと言ったのだぞ」


 ふーん。これは王太子の言い逃れだな。どう切り抜けるのか、お手並み拝見。


「ご、ご冗談を。言われたではありませんか。正妃など好きにすればよいと。望むならばくれてやる。その存在がミーシャを哀しませるのなら、誰にだろうとくれてやると。この儂、ボウでも構わない、正妃をここまで日々王宮から通わせてやると」


王太子の瞳が僅かに揺れた。顔色を変えないよう頑張っているが、覚えがあるんだな? バカだな、ほんとに。相手もバカだったことが救いだ。俺が商人だったら、これを言質に正妃をどうこうせずに、国庫から金を吐き出させる。正規に金を使ってくれるなら罪にはならんだろうに。それで美姫でもなんでも買うが安全だ。男としては同情するがな。世にも稀なる美少女が据え膳で転がってるとなれば誰だって手が出る。ボウの過失割合は2:8がせいぜいだ。ってとこで、王太子に非があるだろう。


「それを約束したと言うか?」

「しましたぞ。ミーシャにお聞きください。ギュスターブ、貴様も居ただろう。正直に言え」


ひくり、と王太子の眉が上がった。


「セーヤはおまえの下僕ではないっ」


 そこ? と思いつつ、やっぱり静観。


「あ、こ、これは、その、ギュスターブ将軍は、娘の、元婚約者という、親しく、つきあっていたので。そ、そうだ。一昨日、こちらの姫は殿下に相手にされなくて寂しい思いをしていると泣きついてきたのですぞ。国に帰りたいと。で、ですから、今が約束を果たす、その時だと、」


王太子が俺を見て瞠目する。どうしてそんなに驚いてるんだ? 俺が言うわけないだろ、約束なんか知らないのに。

王太子が固まっている間に、セーヤが言う。


「それは私が従者に言わせたのだ。おまえの卑劣さを確認するためだ、ボウ」

「なんだとっ、きさまっ、儂のどこが卑劣だ。約束通り、正妃を頂くだけではないかっ」

「殿下は、おまえに正妃を下げ渡すとは言われていない。望むのならば誰にでも、と言われたのだ。その他の言葉は補足であり綾だ。で、あるなら」


セーヤは、王太子に片膝をついての最敬礼を表し、


「私に、リグレットノア様を賜りたいと存じます」


 そう来たか。


他に俺を望む者が居れば、この話は棚上げになる。が、セーヤ、おまえが王太子に助け舟を出したらダメなのに。そうやって甘やかすから、こいつも命が早々に消える羽目になるんだ。


「それでは、セイダロンに言い訳が立たぬ」


 王太子……突っ込む気すら起きない。


「ならば、お許しをいただけるまで、私は幾度でもセイダロンへ参ります」

「そのような無理は通らんぞ」

「そうだ、姫は儂のもんだっ」

「リグレットノア様がお口添えしてくだされば、いずれ叶いましょう。兄君は姫に甘いとお聞きしております」

「セーヤ、おまえ…」

「おまちくださいっ、お約束は、儂とですぞっ、姫は儂が頂くのですぞっ」


うっわ、ボウ、このおやじ、いきなり傍。ぎょえ、また、怖いもの見たさが炸裂して動けないっ。


「寄るな、下衆が」


セーヤが俺を抱えて、飛び退る。


もう、めちゃくちゃだ。しかも、セーヤの抱え方が、うーむ。いつもは腕だけで俺を持ち上げるのに、こう、がばっと、寝ている赤児を胸に伏すような……。


パンパンとラシュートが手を叩く。


「ボウの妄想による王太子殿下への言いがかりを厳重に警告し、正妃に対する不敬を告発する。以降、正妃にその顔を一切見せぬ事。これを破れば百日間の投獄となる。心せよ」

「なんだとっ、ミーシャを呼べ。儂は間違ってはおらんっ」

「心せよ。二度は無い。ボウ」

「…っぐ」


そしてラシュートは「殿下」と片膝ついて、王太子の退出を促した。


むりやりまとめた感が半端ない。

罰則がこんなに軽くていいのかと思わない事もないが、ラシュートが王太子と事前打合せした結果かと思う。腐っているがそれでも愛する妾妃ミーシャの父。あまりオオゴトにすると、ミーシャの進退問題にもなりかねない。俺も困るしな。ここは黙っておこうと、セーヤの腕の中で思った……なぜだ、なぜ腕の中だ!



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